青山商事のネットと実店舗を融合した次世代型店舗「デジタル・ラボ」の売り上げが堅調だ。店内には自社ECサイトの在庫とつながった大型デジタルサイネージやiPadを複数設置し、接客に活用することで新しい買い物の形を提案する。
在庫がECと連動することで小型店でも大型店並みの豊富な品揃えが可能となる。同店は販売現場や店舗運営、経営上での効果も大きく、オムニチャネル戦略の一環として出店を拡大する計画だ。
(大竹清臣)
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誰でも気軽に操作
デジタル・ラボの店外ディスプレーはもちろん、店内の洋品、レディス、紳士スーツの各売り場にも設置された大型サイネージでは実物大でスーツの素材感や色・柄を確認できる。通常なら効率最優先で設置しない接客テーブルにはiPadが置かれ、ゆったりしたスペースで顧客との会話が楽しめる。
販売員だけでなく、欲しいものを検索するなど顧客自らが操作するのも可能だ。タッチパネル式なので誰でも扱いやすく気軽に触れられる。デジタルサイネージは接客で使わない時はキャンペーン商品の告知やブランドイメージの訴求などの役割を担う。
店頭在庫は3分の1
品揃えは主力業態「洋服の青山」と基本的に同じだが、店頭在庫量が大きく異なる。通常なら、最低でも売り場面積約500平方メートル、店頭在庫約1500点が必要なところをデジタル・ラボなら3分の1で済む。「ECと在庫連動しているので、店頭には同じ色柄のスーツのサイズ在庫をほとんど持たずに多くの品番を揃えられる。同じ型紙のブランドなら1品番1サイズの在庫を置くだけで、ゲージ見本のように試着や採寸が可能となるのが強み」(石矢浩EC事業部長)。
主力アイテムであるスーツの陳列法も通常店のサイズ別と異なり、ブランド別になっている。そのため、接客のアプローチも好みのシルエットやフィット感を聞き、色・柄、サイズを選んでもらうので通常とは逆となる。
好みの商品が店頭になくてもEC在庫が補完するので売り逃しが防げるのも大きい。顧客にとっては、商品が自宅へ配送されるため、手ぶらで帰宅でき、裾や袖の丈を補正した商品を受け取るので再来店しなくていいのもメリットだ。デジタル接客への抵抗感は若い世代はもちろん、中高年を含めて全世代でほとんどない。
オムニチャネルの進化形
そもそも、青山商事の店作りにとって最も大事なのは「圧倒的な品揃えの量」。それが顧客満足につながるという姿勢を創業当初から貫く。その理由は主力のスーツを販売する際、郊外立地の大型路面店で成長してきた歴史にまでさかのぼる。
後に郊外から都心を攻める際も池袋、新宿、渋谷などにも大型店を出し続けた。EC全盛時代にはオムニチャネル戦略として、10年前から自社サイトで「試着予約」という仕組みをスタート、実店舗への送客に力を入れてきた。試着予約はECで商品購入する前にサイズや色、素材感などを確認するため、近くの「洋服の青山」の店舗で試着し、気に入ったら店頭で購入できるサービス。その進化形がデジタル・ラボなのだ。
実験的な同店では立ち上がりから1年半ほどで様々な効果が出ている。EC在庫と連動しているので、店頭では今までの裾上げ・袖丈詰めなどの補正業務、平日夕方の混雑時の商品引き渡しなど販売員の付帯業務が減少し、接客に集中する時間が増えた。
補正後の預かり品のバックヤードスペースもいらなくなった。EC在庫から自宅へ配送するので、店頭の在庫も減らない。経営的な視点で見れば、在庫の効率化にもなる。現状の店舗運営の非効率な部分の解消にもつながる。
現在、16年秋にスタートした秋葉原の1号店、昨年秋にオープンした蒲田店、仙川店の3店だが、さらに業態を磨き上げていければ出店拡大の可能性も高まる。
■効率化で出店加速を/青山理社長
デジタル・ラボは計画以上の売り上げで推移しています。小型店で店舗運営が効率化できれば、出店は加速できるはずです。将来的に郊外店がデジタル・ラボになった場合、余分なスペースを新規事業などに有効活用することもできるでしょう。全国800以上ある実店舗はオムニチャネル化で力を発揮できます。そのためには物流やシステムへの大きな投資が欠かせません。