21年春夏パリ・コレクション デジタルの表現は進化の途中

2020/10/13 11:00 更新


 21年春夏パリ・コレクションは、デジタルをうまく活用してシーズンコンセプトを明確に伝えたブランドが生まれた一方、フィジカルの強さを再認識させるシーズンとなった。フィジカルでは一瞬で分かる服の力を、デジタルでどう説明するのか。オンラインとともにオフラインで資料を発送して、多面的にコンセプトを伝えようとする手法もとられた。フィジカルとデジタルの活用方法はまだ模索の途中にある。それぞれを組み合わせていくことで、新しいコレクションの表現方法も生まれてくる。

(写真はブランド提供、パコ・ラバンヌは大原広和写す)

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〈デジタル〉

 ラフ・シモンズとの共同クリエイションとなったプラダが大きくイメージを変えたのに対して、ミュウミュウの新作がどうなるのか。パリ・コレクション最終日の注目となったミュウミュウのデジタル配信は、まさしくミウッチャ・プラダの世界。バスケットコートのような空間にピンクのカーペットが敷かれ、スポーティーでガーリーなスタイルが次々と現れる。ジャージー切り替えのトップにブルマパンツ、ベアバックのフリルトップとジャージーパンツ、甘さとスポーツのミックスを象徴するようなアイテムが揃う。ピンク、エメラルド、ブルー、イエローといった配色にビジュー刺繍を重ねていく。その配色とジャージーアイテムのレトロなムードは、ウェス・アンダーソンの映画に登場する人たちを思い出させる。ビジュー刺繍の装飾をスポーツアイテムとミックスすることで、ラグジュアリーなキラキラが快適さや日常性と共存する。その足し算と引き算のバランスは、まさにミウッチャ・プラダらしいデザイン。そして、快適さとスペシャル感の両方にアプローチしたデザインは、コロナ禍で人々が求めているであろうものとぴたりと符合する。

ミュウミュウ
ミュウミュウ
ミュウミュウ

 メゾン・マルジェラはジョン・ガリアーノ自身による物作りの背景説明と新作紹介をデジタル配信した。オートクチュールでローンチしたフィルムプロジェクトの第2弾で最後となるフィルム映像だ。人とのつながりが新たな価値となる現状から、2人でステップを踏むタンゴを通して新作を披露した。ジャケットやコートのショルダーラインは外され、鋭角に肩を飾り、切られた生地の隙間から下の生地をのぞかせる。ダークなメイクのモデルが着るのは深い胸元のブラックドレス。マルジェラのブランドタグにあるナンバリングをダンス競技のゼッケンのように背中に飾り、ダークスーツは激しい雨に打たれたかのように肩から身頃にコーティングがしたたり落ちる。水しぶきをあげながら踊るタンゴダンサーの映像は、ニック・ナイトによる美しく幻想的な世界。しかし、クチュールのコレクションをいかにプレタポルテで製品化していくのかを伝えるには十分とは言えない。フィジカルなショーならば一瞬で服の力を伝えられるのだが、今回の映像では説明に終始し過ぎたように思う。

メゾン・マルジェラ©MAISON MARGIELA

(小笠原拓郎)

〈フィジカル〉

 発表の場をニューヨークからパリに移したガブリエラ・ハーストは、国立パリ高等美術学校のミュリエ(桑の木)の庭園に100人を招待し、ショーを開催した。CFDAファッション賞受賞の直後とあり、注目を集めた。

 ウルグアイの牧場で育ったというハーストはカーボンオフセットプロジェクトをはじめ、エコ素材や伝統技術を取り入れたサステイナブル(持続可能)な服作りを大切にしている。春夏は母からの貝殻のブレスレットを着想源に、モノトーンからサイケデリックカラー、ロングドレスからフォークロアなアイテムまで異なる要素をうまくまとめ完成度の高いコレクションに仕上げた。手編みのパネルでトップとスカートをつなげたカシミヤ・シルクのニットドレス、ヘムにタッセルを手で縫い付けたカシミヤのライディングコート、編みのバリエーションを組み合わせたハンドクロシェのロングドレス、他にも染め、プリント、パッチワークなど手のぬくもりをひめた30ルックが揃う。コレクションのきっかけとなった貝殻は、リサイクルシルクのアイボリーロングドレスに。ウエストから腰にかけ大胆にカットしたカーブに刺繍されている。15年創設の同ブランドに昨年、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンが資本参加した。

ガブリエラ・ハーストⒸLuis Alberto Rodriguez

 ジュリアン・ドッセーナによるパコ・ラバンヌのショー会場は、元倉庫を改装した3区のイベントスペース。一般もショーが見られるようにランウェーを屋内から歩道につなげ小さな競技場のようにした。ロックダウン中の考察やアイデアを発展させたコレクションが多い中、ドッセーナはロックダウン解除後に観察してきたパリジェンヌの服装の変化がイメージソースだ。ランジェリーが偏在するバストを強調したシルエットで、常識を脱したコーディネイトを提案する。ブラのようなレースのクロップトトップにレパードプリントのメタリックジャージーのロングガウン、パウダータッチのブラにはグランジベストをコーディネート。フィナーレには幾何学モチーフのメタルドレスで頭からすっぽり全身を包んだモデルが音を立てながら現れ、会場を沸かせた。

パコ・ラバンヌ

 いつもの場所でいつものようにショーが開催できない今回のファッションウィーク。慣れない屋外会場への移動、コロナだけでなく空にも見放され、雨にぬれたランウェー。そんな疲れを吹っ飛ばしてくれたのが、パリ郊外の旧転轍(てんてつ)操作場で開かれたラミンヌ・クイヤテのズリー・ベットのショーだ。ショーというよりもハッピーファッションフェスティバル。コレクションが受ける受けないは関係なし。ショーの間、飛び跳ね続けモデルをランウェーに送り出すラミンヌのパワーにかなうものはない。永遠のオプティミストがモットーの彼のシーズンのキャッチは、「ファンキング・ファッション・ファクトリー100%リサイクル」。ストックを切り取り、裁ち直し、継ぎ直し、90年代から変わらない派手なルックに仕上げた。モデルはラッパー、元ミスフランス、俳優、友人らダイバーシティーの36人。ラミンヌは協力者みんなに感謝、そして前日に死去した高田賢三さんにオマージュを捧げた。

ズリー・ベットⒸLuca Tombolini

(パリ=松井孝予通信員)



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