〈フィジカル〉
コロナ禍を機に、コレクション発表の場をパリからミラノに移したヴァレンティノは、鋳造所を会場に選んだ。コンクリートと土がむき出しのインダストリアルな作業場に花が生い茂る。英国のシンガーソングライター、ラブリントの情感豊かなライブ音楽に乗って歩くモデルは、ストリート・キャスティング。様々な国籍や体形、個性が際立つ。
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レディスは、全体がフリルで構成されたヌードカラーのシフォンのブラウスとジーンズ、風をはらむビビッドカラーのロングドレス、ロマンチックなレースの花が幾重にも重なるビッグシルエットのハーフコート、シンプルな黒のミニドレス。リアルクローズが増えた印象を受ける。美を押しつけることなく、個々の自由な精神と融合することで美がさらにさえわたる。
メンズも、花モチーフのかぎ針編みの黒いボンバージャケット、グリーンに大輪のピンクの花が咲くカーディガンなど、クラフト感あるロマンチックなピースが揃う。フォーマルな黒のオーバーサイズジャケットに合わせたのは純白のアシンメトリーなビッグシャツとミニショーツ。浄化されたスタイルだが、ストイックさはない。自由がみえる。
(高橋恵)
〈デジタル〉
デジタルで見るヴァレンティノのコレクションは、いつになく軽快でリアリティーを感じさせるものだった。黒いノースリーブトップとショートパンツ、レースのトップとショートパンツ、ストラップで留めるベアトップアイテムやレースの透け感が軽やかで、黒一色のコーディネートとあいまってミニマルな雰囲気が漂う。ベージュのブラウスのフリルの量感や透け感にはこのメゾンのエレガンスが込められているものの、ボトムに色あせたブルージーンズを合わせることでデイリーユースな感覚を強調する。
ピンク、ブルー、パープル、イエローといった美しい色を生かしたドレス、絶妙の配色で描く花柄のマキシドレスなど、ヴァレンティノのシグネチャーとも呼べるスタイルも健在。しかし、春夏はエレガンスをたんまり盛り込んだデザインよりもどこか引き算を感じさせるデザインが気にかかる。
例えばメタリックなトップと合わせたチノパンツ、レースのジャケットと合わせた白いシャツやショートパンツ。ハンドクラフトを生かして作りこんだアイテムとカジュアルなアイテムとのメリハリを生かすことで、ラグジュアリーでありながらリアルで抑制が利いて見える。
(小笠原拓郎)