21~22年秋冬パリ・メンズコレクションは、デジタル配信が軸となる中で、日本勢のフィジカルなショーが際立っている。服のクオリティーやクリエイティビティーをリアルに感じられるリアルのファッションショーはデジタルにはない強さを発揮できるからだ。それだけに、デジタルがメインとなってしまう現状がもどかしくもある。
(小笠原拓郎)
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カラーがパリメンズにショー形式のライブ配信で戻ってきた。舞台となったのは東京の八芳園。夜の庭園にブルーの照明がともされると、そこに次々とレイヤードスタイルのモデルが現れる。コートの上に重ねたジャケット、その上にさらにカーディガンを重ねていく。ジャケットとコートが合体、あるいはジャケットとカーディガンがずれたように合わせられるスタイルもある。チルデンセーターは2着がフロントで合体したように編地が切り替わる。ミドリフトップのダウンジャケット、トラックスーツ、スタジアムジャンパー、トレンチコート。スポーツとトラッド、カジュアル、それぞれのアイテムが複雑に切り替えられ、重ね合わせられる。一着ずつ完全に重ね着しているものもあれば、服をパーツ状に作って合体させているものもある。しかし、見ていくうちに、その境界もあいまいになり、いずれ、どこが基本となっているのかわからなくなる不思議な感覚。しかも、このパーツごとに切り替え合体させるデザインは、縫製工場が苦労することも想像できる。
テーマは「新しい形のミニマル」。装飾的な要素を残し、共存させながらもシンプルな印象を与えることに挑んだ。ここ数年の中では、かなり若返ったイメージ。
注目の若手コンビ、ボッターはサンゴの再生を手掛ける映像からスタートした。海のモチーフがいっぱいのコレクション。ルアーの刺繍のジャケットやコート、ボートのフロートからイメージした白いバッグ、ダイビングスーツをウエストで折り返したようなパンツを揃えた。コンセプチュアルなカッティングも面白い。スーツはフロントが大胆にカットアウトされプルオーバーのようにも見える。あるいはスーツのバックに袖が2本くっついたようなデザインもある。テントのように裾が立体的に膨らむシャツや、カマーベルトのように見えてパンツを2枚重ねたディテールもある。コーラルピンクやブルーの美しい配色とコンセプチュアルな造形のバランスがさえている。
リック・オウエンスは、屋外でフィッティングして屋外を歩くショーをデジタル配信した。白いブリーフにサイハイブーツやコートというリック・オウエンスらしい衝撃スタイルにまず驚かされる。ショー会場でなければ変質者扱いされそうなコーディネートだが、ここは屋外で公共の場所だと考えると複雑な気分になる。しかし、それ以外は得意とするデコンストラクト(解体再構築)なカッティングを生かしたストリートスタイルだ。秋冬は服の一部がテープ状に揺れるディテールがポイント。チュニック丈のニットはアブストラクトなヘムラインから布が垂れ下がり、パンツも共地のベルトが揺れる。ダウンジャケットはオフショルダーのように肩がカットされたデザイン。
オムプリッセ・イッセイミヤケはオンライン形式で新作を見せた。テーマは「Never Change, Ever Change(変わらないもの、変わり続けるもの)」。ブランドの原点であるプリーツ加工を技術者が工房で行う一連のプロセスを見せながら、モデルたちが歩き回る姿と重ね合わせた。機械音をサンプリングした音源が、モデルたちの動きに緩急をつける映像だ。クラシックやスタンダードとされるスタイルに、独自の視点と技術を取り入れて、ブランドの新たな基本となる服の形を探った。アフリカの編みかごをモチーフに描かれた柄のプリント、再生ポリエステル100%の生地を使ったプリーツ、先染めポリエステル糸を織った生地へのプリーツなど、さまざまなテクニックを生かしてスタンダードアイテムに変化を作った。インダストリアルデザインとしてのプリーツの新たな展開で、男性の新しいライフスタイルに応えようとしている。
ヨシオ・クボは、前シーズンに続き、和を感じさせるコレクションを見せた。木工細工の工房のような空間と、松の巨大な枝を鉢に生ける映像とともに新作を披露した。きもの合わせのセットアップやコート、帯のようなベルトといったアイテムが軸になる。そこにスポーティーな配色のブルゾンで未来的な空気をプラスする。斜めの前合わせのダッフルコートやねじれた切り替えのトップなどのパターンの遊びも差し込む。テーマは「幽玄」。日本文化の基礎となる美的理念の一つである幽玄をテーマに、モダンなメンズウェアをミックスしたという。神社や仏閣といった建築物、森林の苔(こけ)や古木をみて感じる〝現在の姿の裏側にある、過去と未来を感じる美しさ〟を久保のフィルターを通してデザインに反映させた。