21~22年秋冬パリ・コレクション 静寂と躍動感のロエベ

2021/03/10 11:00 更新


 デジタル配信だけとなった21~22年秋冬パリ・コレクションは、フィジカルのショーができないだけに様々に趣向を凝らした映像の配信が相次いだ。3都市からの映像を見せたエルメス、ショーの中止を掲載した新聞を送り届けたロエベなど、アイデアに富んだ発表が続く。

(小笠原拓郎、青木規子)

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 ロエベのデジタル配信の前日、A4サイズのアルミのボックスが届いた。中のタブロイド判の新聞には、特報「ロエベ・ファッションショー中止」とある。開催予定だったランウェーショーを中止し、デジタルメディアではなく新聞で発表しようという試みだ。「ル・フィガロ」や「ル・モンド」「ニューヨーク・タイムズ」「朝日新聞」など世界各地の新聞に挟み込まれた。題して、「ショーインザニュース」(ニュースの中のショー)。クラフトワークやローカル重視など、独自の美意識を軸にブランド作りを進めてきたロエベならではの発信となった。

 撮影場所は、パリのガレ・ド・リヨンの駅構内にあるレストラン。クラシカルでありモダンでもある空間で、カラーブロックや大きなディテールをポイントにしたエレガントなルックを見せた。トーガのようなドレスは、束ねたドレープを肩やウエストのバックルに通して、体を包み込んでいく。ドレーピングによるクチュールのような優雅さがある一方、大きなバックルは幾何学的でモダンなイメージ。それを緻密(ちみつ)にビーズで飾り付けている。黒×白、鮮やかな色の幾何学柄など色のコントラストがポップな感じをプラスする。なかなか難しい服だが、静寂と躍動感が混在していて楽しい。ロングドレスとローファー風のぽっこりブーツの組み合わせも新鮮だ。発行された新聞には、「手で触れる新聞の物質性は、ファッションのファンタジーに物理的な存在感を与えるであろう。願わくば、これがあなたに夢見るときをもたらさんことを」と、現代のファッションに対するポジティブな考えも記載された。

ロエベ
ロエベ
ロエベ

 ジル・サンダーは光と影の間で見せるノスタルジックな映像を見せた。パールのインナーのようなアクセサリー、たっぷりのプリーツを畳んだ白いドレス、ブラウンのファーコート、ドレスのバックに取ったタック、様々な服のディテールを断片的に集めたストーリーが、このブランドの持つ繊細な空気を運んでくる。秋冬には珍しい明るいナチュラルカラーがベースとなる。バター、クリーム、イエロー、ライラック、ラズベリーといった色を大胆にテーラードジャケットやコート、ブラウスにのせていく。レザーのコートは大きな襟で量感を強調したデザインの一方で、ジップアップでシャープさを強調したものもある。「大胆不敵。このコレクションは、個性、自由、変化への頌歌(しょうか)」だという。カットジャカードのぼそぼそとした質感をドレスにのせ、スタンプで押したようなモノクロのチョウがセットアップを彩る。ストレートシルエットのシャープなテーラードスタイルとどこか素朴なディテール。レースを配したランジェリードレスとマスキュリンなパンツスーツが共存する。多重的で多面的、多様化する欲求と快楽の間で揺れ動く女性を描いた。アクセサリーはしなやかなナッパレザーのブーツ、箱型状のハンドバッグ、トートバック。

ジル・サンダー
ジル・サンダー

 エルメスはニューヨーク、パリ、上海の3都市を結んだ映像を配信した。ニューヨークはオレンジ色のカーテンを配置した空間でブラウンの服を着たダンサーたちによる映像、上海からはオレンジのボックスを使ったダンサーたちの映像。その間に挟み込まれるようにパリでのコレクションが配信される。コレクションは、オレンジのハットケースを積み重ねたような円柱の並ぶ空間をモデルたちが歩き回る。秋冬もエルメスらしいミニマルな中に機能美を散りばめたスタイルが揃う。レザートリミングのストレートドレスやコート、グラフィカルなスクエアのトリミングがシャープなイメージを強調する。シアリングのブルゾンに柔らかなレザーのスカートなどエルメスのシグネチャーともいえる上質なレザーアイテムも充実する。ブルゾンはポケットやヨークを切り替えたり、袖口をキルティング地に切り替えたり。フリンジヘムのジップアップコートやジッパーとフリンジをアクセントにしたレザードレスなど、シンプルなラインに直線的なディテールを取り入れる。小さなポンチョを重ねたようなブルゾンや前立てにレザーを配したストレートドレス、シンプルな中にある布の変化で遊ぶ。「まばゆいばかりに神秘的で、パワーとオーラをまとった女性騎士たち」をイメージしたコレクション。「現在(いま)をかっぽするための衣服」を見せた。

エルメス

 アルトゥザッラは、あたたかな陽射しが差し込む部屋で、穏やかで静かな服を披露した。ふんわりとした質感のニットアイテムが優雅な日常を感じさせる。ニットのセットアップはブラやオフショルダーのトップと、カーディガンやストレートスカートの組み合わせ。肌をのぞかせるディテールでドレッシーな感じをプラスする。ハイネックトップとストレートスカートのセットアップもツイード風の肉厚ニット。ハイゲージのトップとローゲージにニット帽、パステルカラーとダスティーカラーなど、素材と色の微妙な違いを重ねて繊細なニュアンスを表現した。

アルトゥザッラ

 イッセイミヤケのショーは、現代的な建築物の中から始まる。いつもよりもぐっとシンプルにそぎ落とした静かな服は、その中に強さを秘めている。ウエストをシェイプしたコートやフレアパンツは、曲線を描くプリーツが大胆なシェープを作り出す。テントラインを描くノースリーブドレスは、風をはらむと丸いバルーンシルエットに。四角い布に手を加えて有機的なフォルムを表現した。墨流しのテクニックで描いた抽象的な模様は、水面のゆらぎのよう。無染色のウールのコートは、ありのままの素材が持つ力強さがある。もう一つの舞台となった荒涼とした大地が持つパワーと呼応する。

イッセイミヤケ

 リック・オウエンスは、ベネチアのリドの海岸沿いの桟橋を舞台にした映像を配信した。「ゲッセマネ」というキリストがはりつけの前夜に祈りをした庭をタイトルにしたコレクションは、現在の人類の緊張した日々を背景にしている。秋冬もリック・オウエンスらしいコンセプチュアルなフォルムが強調される。タイトなレザーのボディースーツのバリエーションとは対照的なパワーショルダーのケープやボンバージャケットといったコーディネートだ。引き裂き、スラッシュも秋冬のキーディテール。プラスチック廃棄物をリサイクルして作るテーラードジャケットも、袖を引き裂き、ボリューム感のあるダウンの袖に置き換えた。大きな肩や甲冑(かっちゅう)のようなパーツなど、終末期を思わせる荘厳さを感じさせるコレクション。

リック・オウエンス

 イザベル・マランの撮影場所は、サークル状の通路が何層にも重なるレトロで未来的な建築。そこで見せる80年代調のルックは、いつも以上にリアリティーがある。疾走感のある音とともに足早に登場するモデルが着るのは、ニットのパフスリーブドレスやブルゾンとハイウエストパンツの組み合わせ。ウエストは常にぎゅっとマークする。ピンクやグリーンに、白や黒を利かせたメリハリのあるスタイルだ。ショートパンツとウェスタンブーツ、ハイネックトップやレッグオブマトンスリーブなどアイコンのアイテムやディテールをベースにしながら、いつもよりシャープに仕上げた。

イザベル・マラン

 ロックの会場もがらんとした無機質な空間。荒々しい大地で見せた前回とはがらりと変わって、人工的な感じを強調している。そこに並んだのは、ハードなディテールを利かせたドレッシーなスタイルだ。シルバーチェーンのストラップドレスには、大きなバックルのベルトを3重、4重に巻き付ける。レースのビュスティエにハイウエストパンツ、ブラやビュスティエを重ねたファーコート。ボンテージ風のディテールがロックのエレガンスに強さを加えていく。ジャケットの身頃は半身だけ部分的にカットされ、赤いブラがのぞき出る。足元はアンクルストラップのパンプス。日常を感じさせるコレクションが多いなか、真逆の非日常を強調し、ブランドのコアを際立たせた。

ロック

 ゴシェールのショーは、パリのポンピドーセンターが舞台。レトロフューチャーを感じさせる透明なトンネルを潜り抜けてくると、青空の広がる屋上に出る。モデルはそこを堂々とした足取りで進んでいく。身にまとうのは、ストライプのぴたぴたセーターにグリーンのハイウエストパンツや、ハイネックトップとレザーのセットアップ。直線を強調した都会的なスタイルのなかに、女性らしいラインが見え隠れする。モヘアのトップとレザーのパンツなど、毛足のある素材と光沢素材のコントラストもポイント。人工的な都会で触れる自然の心地良さ、そんな感じをコレクションからも感じる。

ゴシェール


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