【パリ=小笠原拓郎】20年春夏オートクチュール3日目は、デザイナーとしての引退を発表したジャンポール・ゴルチエのショーに注目が集まった。引退を宣言するデザイナーがいる一方で、新たにクチュールハウスとしてカムバックするブランドも登場している。
(写真=大原広和)
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数日前に突然の引退を発表したジャンポール・ゴルチエ。ゴルチエ本人が手掛ける最後のゴルチエ・パリのショーは、いつもの社屋ではなくシャトレー劇場が舞台となった。ぎっしりと5階まで埋めつくした観客。暗闇の中、オーケストラの演奏とともにエイミー・ワインハウスの「バック・トゥ・ブラック」が流れる。もちろん、ワインハウスはもう他界しているため、歌っているのは別人。思えば、ゴルチエはワインハウス死後にモデル全員をワインハウス風メイクにしてショーをしたこともある。そんなメロディーとともに、喪服のモデルたちの間をぬって、ひつぎが運ばれる。今夜が最後であることを実感させる演出で始まった。
フロントにシャツやジャケットを付けたトロンプルイユにネクタイをつなげたタブリエ、ライダーズジャケットを解体したアイテムにビュスティエディテール。ゴルチエのアイコンともいえるスタイルが次々と登場する。セーラーのイメージ、デニムでボーンを作ったテントドレス、メタリックなブラトップやコルセット。テーラードからデニム、下着までゴルチエがこれまで作り上げてきた世界の集大成ともいえるスタイルが揃う。〝おでこ靴〟にコルセットとパンツスーツの対比、両性具有のアンドロジナスといった世界で、80年代のパリ・コレクションの中心にいてモードをけん引してきた。今でこそジェンダーを超えた表現は普通になっているが、そんな表現の先駆者の一人だ。
フィナーレにカルチャー・クラブの「ポイズンマインド」の歌とともに登場したゴルチエ。実はそこで歌っているのがボーイ・ジョージ本人だと気付かされる。80年代において、ジェンダーを超えて音楽とファッションで話題を集めた二人。同時期に、新たな価値観を提起した二人に交友がないはずがない。今夜はミューズたちに囲まれて幸せそうなゴルチエ。バスクシャツを着て駆け足でフィナーレに現れる姿を見ることももうない。ファッションの一つの時代の終焉(しゅうえん)に寂しさを感じる。
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