皆さん、16年9月の当記者ブログにてご紹介した荻田泰永(おぎた・やすなが)さんが、今年18年1月5日に、日本人初となる「南極点無補給単独徒歩到達」を達成しました! 17年11月中旬から約60日かけて、外部からの物資補給や動力を使わず、単独で1130キロを踏破するというものです。
荻田さんは2000年から14回、北極圏に入り、累計9000キロを自力で移動された“北極冒険家”。 いつもとは真逆の南極を舞台にした今回の挑戦を終えて、その感想や、恒例の(?)レイヤリングに関するご意見を聞いてみました。
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このほど南極点無補給単独徒歩到達を達成した荻田泰永さん
■南極は進めば、安定して距離稼げた
――南極冒険の難易度はどうでしたか? 以前のインタビューでは、北極点を目指すルートは、足元の氷が海流や風で激しく動くことに悩まされたと言っていましたが…。
北極に比べたら、南極冒険はやりやすいですね。これといった障害物が無く、歩いたらそれだけ進むことができ、安定して距離を稼げます。北極では進んでも戻されたり、流されたりして、前進しようにも進めないので、それすら成り立ちません。
――とはいえ、平坦な道ばかりではなかったはず。
南極大陸は、そのほぼ全体が分厚い氷の塊「氷床」に覆われています。ゴールである南極点の標高は2800メートルほどありますから、少しずつ登っていくわけです。
当然、クレバス(氷河の亀裂)帯もありますので、そこは回避しながら進みました。傾斜もあります。ところどころ登ったり、降りたりしながら進んでいきました。
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――南極では「カタバ風」と呼ばれる、特有の強風があるとか。
高地から吹き降ろしてくる風で、南極点に向かって歩くと、常に向かい風になります。ただ、印象としては北極のブリザードのほうがはるかにキツイですけどね。
カタバ風は常に吹いています。風速は10メートルくらいですが、それ以上強くはなりません。一方、北極の場合は無風の日もありますが、一度吹き始めると、風速30メートルというのもざらで、何日も止まないことがあります。「中途半端な風がずっと吹いているのが南極、吹かない日もあるけど一度吹いたらスゴイのが北極」ですね。
――今回の快挙はかなり話題となりましたが、荻田さんご自身は淡々としていますね。
北極冒険に比べて、そんなに難しくなかったですからね(笑)。
もちろん、南極の無補給単独徒歩到達自体の難しさはありますが、要は行く人の問題というか…。私の場合、南極で待ち構えているリスクについては、これまで経験したことで十分取り扱えるものでした。
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■汗を吸わせて乾かす!
――さて、今回の南極冒険では高密度綿織物「ベンタイル」を使った特注ウェアをアウターに使っていましたね(ブランドは「ポールワーズ」)。使い心地はいかがでしたか?
すごく良かったですよ。汗が全て凍ってしまう極地では、汗の処理が一番難しく、大きなテーマになります。今回、あえてコットン製を選んだのは、コットンの優れた吸汗性に着目したからです。南極は乾燥している上に、今回行った季節は夏なので、アウターの生地に汗を吸わせれば、強い太陽光によって着たまま乾かすことができると思ったのです。この予想はドンピシャ。狙い通りでした。
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――前回の取材では、レイヤリングの途中で汗を凍らせるという、斬新な技をご紹介されましたが…?
確かに北極圏での冒険では、そうしたレイヤリングになります。北極海では汗をレイヤリングのどこかで止めて全部凍らせたほうが効率的なんです。しかし、今回の夏の南極では、汗の蒸発が期待できましたので、ベンタイルを採用しました。
でも、このベンタイルを北極海では使わないかな。北極は南極ほど太陽光が強くないし、気温も北極のほうがはるかに低いので、濡れると乾きません。乾く前に凍ってしまって、どんどん乾かなくなってしまいます。
――ちなみに、今回の冒険ではどんな着こなしでしたか?
一番下に、裏起毛の薄い化繊アンダーウェア。その上にノルウェー製のアンダーウェアを着ました。ノルウェー製のアンダーウェアは2層になっていて、下が化繊のメッシュ地で、上がウール80%・ポリエステル20%の厚地のものです。そして、その上にベンタイルのアウターです。テント内ではアンダーウェア1枚です。
――日中は3枚で、動かなくなるテントでは1枚だけ?
白夜で、ずっと太陽光が降り注いでいますから、テント内は暖かいんです。もちろん、保温性・耐久性に優れたテントをセミオーダーして使用していますが。
――今後のプランは?
北極点への挑戦はもう少し先になりますが、来年19年春には大学生以上の若い人を日本から北極圏へ連れて行って一緒に歩く冒険を予定しています。
――これからも頑張って下さい。ありがとうございました。
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<取材を終えて>
偉業を成し遂げた人物とは思えないほど、淡々と飄々としていたのが印象的でした。
北極冒険で培われた知識や技術、対応力は、「一番下がってマイナス23度」(荻田さん)という南極では十分通用するものでした。それだけに、これまで挑戦してきた「北極点無補給単独徒歩到達」が、過酷なものであるかを物語っています。
取材中に「南極点に着くと、方位磁石(コンパス)はどうなるのか?」と素朴な疑問を投げかけたところ、磁極(磁力の極点)と地軸の違いに始まり、実際に北磁極に行った際の経験談、地球の磁力が生まれる理由、北半球と南半球で使うコンパスの違いなどにまで話題を広げながら、分かりやすく説明してくれました。まるで地質学者のように詳しく、びっくりしましたが、「こうした探究心の深さが、荻田さんを冒険家たらしめている理由の一つではないか?」と感じた次第です。
なお今取材直後に、荻田さんは2017「植村直己冒険賞」を受賞されました。おめでとうございます。
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すぎえ・じゅんぺい 本社編集部所属。編集プロダクション勤務の後、03年に入社。大手アパレル、服飾雑貨メーカー、百貨店担当を経て、現在はスポーツ用品業界を取材。モットーは『高い専門性と低い腰』『何でも見てやろう』