服作りと編集・グラフィックをそれぞれ担当する4人組デザインスタジオ「ウェル」。服に加え、本や印刷物の制作、ジャンルを超えた協業なども行っている。現在、服のコレクション発表は年1回のペースで続けている。今年で活動10年目に入った。
(坂入純平)
京都造形芸術大学で知り合ったメンバーが、16年に都内で住居兼アトリエを構え、屋号をウェルとしたのが始まりだ。17年には初のカプセルコレクションを発表し、そのフィッティング風景を記録した写真集も刊行。以降、活動を重ねながら販路も広げ、現在は東京の「O」、名古屋の「サードプレイス」、大阪の「フォーム」など5店ほどに卸している。
問題意識
近年はコレクション発表に際して、テクストも重視する。背景にあるのは、ファッションにおいて批評やアーカイブが十分に機能していないという問題意識だ。
新たな服が次々に生み出される状況において、特に中小規模のブランドでは意匠がどのような考えや文脈から生まれたのかが蓄積されにくい。結果として「似ている、似ていない」というような表層的な議論にとどまりがちだ。ウェルにとって大事なのは意匠そのものではなく、それがどんな発想や「ふざけ方」から生まれているのかにある。
プロダクトとしての品質だけを見れば、規模の大きな会社やブランドの方が良いものを安く作れる場合もある。そうした状況に対し、デザイナーたちはそれぞれのバックボーンを基にしたインパクトのあるデザインを打ち出してきた。一方、ウェルが大切にしたいのは「普通の服みたいな状態」であることだという。
安息角
「この作家の独創的なデザイン」として服を語られることにはあまり関心がない。だから分かりやすさに手を出さず、あえて抑えたデザインを心掛けている。服の中に分かりやすいジェスチャーを入れて作家性を誇示するよりも、生地や付属といった物に「応答」するように服を作りたいという。最新コレクションも、工場側の縫製都合や外部パタンナーの提案といった外的要因を積極的に受け入れながら形にしていった。

その姿勢は、テーマを「アングル・オブ・リポーズ」とする最新コレクションにも表れている。粉体を積み上げたときに崩れずに保てる最大の角度を指す「安息角」に由来する。製作したTシャツでは、強撚糸を綾織りにした生地に合わせ、ロゴを斜めに配置した。通常、企業やブランドのロゴはきれいにまっすぐ入れるのが前提だが、このTシャツでは生地に沿うように自然に傾けている。斜めのロゴは一見すると失敗のようにも見える。その背景には、コレクションタイトルのもとになったあるアーティストに関する記事の中で示されていた、「人々が失敗を受け入れるとき、何を失敗とみなすのか」という問いがある。


服は作り手よりも、買って着る人の方が実際は長く付き合う。着る人は、作り手の想像しなかった服と組み合わせ、別の文脈で使っていく。ウェルは、そうした広がりにファッションの面白さを感じている。「人が物を選び、組み合わせながら毎日を生きることの方が、デザイナーの仕事以上にクリエイティブなのではないか」
今後も基本的にはこれまでと同じ、持続可能なペースで活動を続けていく考えだ。10年を節目に、一度立ち止まって活動を振り返り、何らかの形にまとめることも模索中だ。
