「価値が提供できる空間づくりをしたい」とレディス企業の取材で聞いた。これまで、インフルエンサーと一緒に組んでブランドを立ち上げてきた事業部の部長が発した言葉だ。「ファッションに使うお金が減っている。これからは服を買うことだけではなく、憧れのモデルと同じ空間を共有できることで、その場所に行くこと自体がステータスになる」と話す。
コロナ下でEC購買が増え、実店舗の存在価値が揺らいだ。オーナーや販売員との会話や、実際に服に袖を通せるなど実店舗ならではの良さに改めて気づくきっかけにもなった。デジタルの利便性を享受する一方で、リアルならではの〝ぬくもり〟や心を動かされる体験を求めている消費者も多いと想像する。ある中小アパレルの取材で地方の個店専門店がコロナ下でも好調と聞いた。都心部への外出を控えるようになり、地元での買い物が増えたことが背景にあるが、理由はそれだけではない。
同社の社長はこう話した。「人と会うことが少なくなり、遠方への外出も減り、好きな服の話をオーナーとしたい気持ちが強まっている」。気づけば長居し、服も売れる。専門性や服への愛と、この人と話したいと思うような人柄が相まって安心感が生まれ、通ううちに信頼関係が築かれる。そこに一つのコミュニティーができ、店の価値になるのだろう。
(麻)