ある縫製工場に若い日本人工員がいた。技術が高く、その工場では誰よりもきれいに服を縫った。しばらく働き、これ以上同じ工場にいても成長が望みにくいと、紹介で技術力の高い別の工場へ移った。
ところが、転職先の工場には自分より若くて技術力が高い人材がゴロゴロいた。縫製スピードも自分より速い。その工員はショックを受けた。しばらくして「仕事を休みがちになった。辞めてしまうかもしれない」と工場の経営者は寂しそうに話してくれた。
スポーツの世界ではよくあることだ。地方校のエースが強豪校に行くと1軍どころか2軍についていくのもやっと、という話を聞いたことがある。レベルの高い環境で上を目指すのか、今の環境にとどまり続けるのか。正解はない。
ただ、スポーツと違うのは、縫製の世界には終わりがないということ。技術力を磨けば、生涯工員として働けるし、工場管理者として能力を発揮する道もある。指導者として後進の育成に力を注いでいる人もいる。
その工員のその後は聞いていないが、「決して技術が低いわけではない」と経営者は強調する。可能ならば、縫製業界に残り、自らの道を切り開いていってほしい。
(森)