部下の報告に熱心に耳を傾け、足りない部分があれば、問題解決につながるヒントを与える。相談や悩みがあれば親身になって話を聞き、参考になればと、失敗談も飾らずに語る。部下からの信頼の厚い店長に、どうしてそこまで親切にできるのかと聞いたことがある。
「恩送り」と彼は答えてくれた。入社時に何も分からない自分を指導してくれた先輩や、失敗して辞めようかと思いつめたとき、黙って手を差し伸べてくれた上司。たくさんの人たちに支えられたが、恩を返そうにも退職や異動で返せなくなってしまった。だから「返すべき恩を後輩たちに送っている」と。
とかく人は、受けた恩を忘れ、一人で成長したつもりになりがち。しかも部下や後輩には、恩を送るのではなく、押し付けてしまう。
そんな傲慢(ごうまん)な人間にならないために、人生のどこかで、恩の収支計算をしてみた方がいい。
振り返って、受けた恩の方が、送った恩よりも大きければ、感受性は正常だ。だが、送った恩の方が大きいと感じるなら、おそらく受けた恩を過小に、送った恩を過大に評価している。一生かかって収支トントンまで持っていければ御の字なのだから。
(原)