来秋冬に向けた展示会が佳境を迎えている。あるレディスウェアのデザイナーの新作は、身近さが備わり、構築的なシルエットを普段使いで楽しめる形に進化していた。「実験的な服作りが好きで、今まではプロトタイプを見せるようなコレクションでしたが、一つひとつの完成度を高めることに専念しました。僕の美学を、人と人との関わりの中で共有していけたらいいな」と話してくれた。
欧州の靴見本市でも、イタリア製のバレエシューズの取材でも同じような話になった。規模は小さいがこの数年対日輸出を伸ばしていて、日本の代理店の社長は「ブランドのフィロソフィーに共感してくれている店に限定して卸売りしている。取引先とともにブランドを育てていきたい」という。
消費の二極化が進み、高額なファッション製品の存在価値が一段と問われている。嗜好(しこう)品の要素が強くなり、独自性が見えず、誰に売るかを明確にできないブランドは淘汰(とうた)されていくだろう。売り手とともに「共有する」「育てる」意識のもと、美しさや日々の心地良さを伝える努力が欠かせない。
(渉)