「日本は、高品質のスーツが世界で一番安く買える国」。消費者にとってはうれしい話だが、これは日本のウール産業の現状を憂いた業界関係者の発言だ。「良いウールを大量に仕入れ、低コストで生産し、安く売りすぎた」。その結果、「ウールの価値を落としてしまった」と省みる。他方で、合繊のスーツが台頭し、若い世代でウールの認知度が低下している。
ここに、原毛価格の高騰が重くのしかかる。ウールの混率を下げたり、ウールを模した合繊が注目され、「ウール離れ」といった言葉までささやかれる。最終製品の価格から逆算し、使う素材や縫製のコストを決めるのが主流の日本。「このままでは、ウールが使えなくなってしまう」と先の関係者は危機感を募らせる。
日本羊毛産業協会やザ・ウールマーク・カンパニーなどは、ウールの優れた機能性や感性をファッション業界だけでなく、消費者にも伝える活動に力を入れる。製品価格が上がっても「本来はそれが適正価格で、裏付ける価値があることを理解してほしい」と別の関係者は話す。最近では、スポーツインナー用途で需要が盛り上がりつつあるほか、合繊の広がりからの揺り戻しや持続可能性の観点から見直す動きもある。ウールに追い風が吹いてきた。
(侑)