体操でリオデジャネイロ五輪と東京五輪に出場し、先日佐賀県で開かれた国民スポーツ大会(国スポ、旧国体)で個人総合1位にもなった杉原愛子選手は、トライアス(東京)の代表取締役でもある。トライアスの事業としてスパッツ型のレオタード「アイタード」を考案し、「体操ユニフォームに新たな選択肢」を生み出した。「現役選手だからこそできることがある。競技やイベント、選手育成などを通じて体操をもっとメジャーにしたい」と様々な取り組みを始めている。
(高田淳史)
離れたから〝見えた〟
東京五輪後、いったん競技から離れたことが転機になった。「オリンピックの金メダルをずっと目指してきた。でも外の世界から体操に関わると様々なことが見え、視野が広がった」
「ハイレグのレオタードが当たり前」と思っていたが、東京五輪でドイツ女子チームが足首まで覆うユニフォーム「ユニタード」を着用し、「こんな選択肢もあるのか」と驚いた。しかし、宙返りなどで足を持つ際に「手が滑ってミスにつながるのでは」と着用することはなかった。
ショート丈のスパッツタイプのユニフォームであれば「普段の練習着(スパッツ)と同じ感覚で試合に臨めるし、恥ずかしくない」とアイデアの種が生まれた。体操レオタードを製造・販売するオリンストーン(東京)と一緒にデザインや生地、ディテールなどを詰め、2カ月ほどで完成にこぎつけた。
恥ずかしい着たくない
女子体操の課題も見えた。「衝撃的だった」のは「ハイレグのレオタードを娘に着させたくない」という母親の声や「レオタードが嫌なので大会にでない」と言った選手の言葉。選手は盗撮や下着が見えることを恐れ、選手を守るために試合会場では撮影禁止。「体操を多くの人に見てもらいたいが、今のままではSNSなどで拡散しづらく、広がらない。選手側でもできることはある」とアイタードの開発につながった。「いったん離れてわかったのは体操が大好きだということ」と昨年競技に復帰。アイタードを着用し試合に出続けている。
アイタードはオリンストーンのECサイトで販売する。スパンコールなどを施した試合用に加え、練習着タイプもあり、税込み8980~3万3000円。今後は「自らデザインしたアイタードも作りたい」。
公式大会でも着用可能だが、体操ユニフォームの新たな選択肢となるには「アイタードでも勝てる」という実績が重要だ。杉原さんは大阪府東大阪市出身で在住。大阪体操協会の賛同を得て、9月に佐賀で開かれた「国民スポーツ大会(体操競技)」で、大阪の女子チームが少年・成年ともにアイタードを採用した。杉原選手は個人総合で1位となり、MVPを獲得。成年女子チームは団体2位と結果を残した。
「生理の悩みも解決したい」とアスリート向け吸水ショーツではazuki(大阪市)と協業する。「アスリート目線で企業と協業し、様々な商品を生み出したい」と意気込む。
「テレビで体操を見たことはあっても実際に目の前で見たことのある人は少ない」とエンターテインメント性のあるイベントなどで「体操をもっと身近に感じてもらう」仕掛けを考えている。イメージする一つの形がフィギュアスケートのアイスショー。「体操の素晴らしい演技とエンターテインメントを融合したイベントが定着すれば、引退した選手のセカンドキャリアの一つにもなれる」と夢は広がる。