魅力ある商品、コンテンツを作り上げ、消費者にイメージを伝えていくことは、顧客作りには欠かせない。デザイナーは企画はもちろん、商品がどう伝わり、購買につながっているのかを意識。商品開発の思いなどを効果的に伝える販売促進は施策を模索しながら奮闘している。
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幼い頃からデザイナーを目指し、初志貫徹でマークスタイラー「マーキュリーデュオ」のデザイナーを務める渡部真珠さん。物作りはもちろん、客の反応も含めたバランスを大切にブランドらしさと新しい魅力を作り上げている。店頭にも足を運び、社内外とのコミュニケーションを深めながら柔軟な発想で長く続くブランドの成長、進化に挑んでいる。
新卒で、アパレルのデザイナー職を経て中途採用で入社した。小学生の頃からデザイナーに興味を持ち、スタイル画の描き方本を購入するなど、小中高を通して思いはぶれない。洋服の歴史など教養を学ぶために大学に入り、その後に改めて服飾専門学校で服作りを学んだ。「物を生み出していくためには、色々な世界を知ることが大事」との考えで、遠回りのようだが信念が見られる。
仕事内容は、シーズンコンセプトやデザインから製品化までの全般を担当。ほかにもブランドのVMD、PRとのビジュアル調整、新店オープンの内装作りも一緒に行うなど多岐にわたる。
自分らしさ加える
コミュニケーションや行動力は渡部さんの持ち味。「店長の顔と名前が一致している」と、直接SNSのDMでやりとりし「お客様からこんなことを聞かれた」「素材の取り扱いは」など、接客に生かせる細かい内容を自ら答えている。「人を通して聞くより、直接の方が早い」と対応には時間を惜しまない。「デザイナー(本部)と店頭との距離感はない」と、商品へのネガティブな意見なども言ってもらえる関係性を心掛けている。
ほかにも毎月、店舗から上がる商品の動き、改善要望などのデータに目を通しエリアマネジャーとのミーティング、毎月の店長会での商品説明、事業部全員での毎月の新規商品を振り返るディスカッションなど、各部署との連携、情報共有を積極的に行い、より魅力的な商品作りと売り上げアップを目指している。
ブランドらしさと自分らしさのバランスを意識している渡部さん。フェミニンでエレガンステイストのコンセプトを追求する一方で、甘さを少し抑えながら辛さのディテール使いや、デザインは甘くても素材で加減して、シルエットなどで自身の「カッコいい大人の女性になりたい」要素を取り入れた企画も大事にしている。

「多くの人に買ってほしい」と「マス向けに見せる」商品のバランスも重視する。売れる商品だけでは「お客様はワクワクしないで、飽きる」からだ。商品量は少なくても「売り上げだけではない、見せていく企画がブランドの継続、成長につながり、ファンを増やしていく」とチャレンジしている。店頭からの「こういうのが売れる」だけでは進化がないと言い切る。
25年春夏では、通常より1.5倍の価格のワンピースを企画した。トップのカットソーと色違いのチュールを重ねたスカート部分のドッキングで、2万6000円。ほかにも糸からオリジナルで作り上げたツイードなど価値が伝わるものを提案。ブランドのイメージが伝わるもので、価格は上がったが、客の反応も良く、手応えを感じている。
週1回は店舗で観察
03年スタートのマーキュリーデュオ。新規客を獲得し続けることも重要で、20代前半の人が憧れる、着てみたいと思える商品導入にも力を入れる。その年代のスタッフとの会話やコミュニケーションを通じて感じ、街でも観察する。週1回は店舗を訪れて客層や服装、売れている商品と動きが悪い商品を見ている。それらも参考にしている。
デザイナーは「正解がある職種ではない」。成果が分かるのは半年後で、次のシーズンに向けて追われているため、「なかなか達成感が感じられない」とも。渡部さんは自分なりのゴールを決めており、サンプルがイメージ通りに仕上がった時や、「この部分が良いとお客様から言われた」など思いが伝わったと感じる時など、売り上げだけではない色々なシーンでやりがいを感じている。
(繊研新聞本紙25年8月18日付)