オーダースーツやインナー(ファンデーション)のように採寸やフィッティングが必要な商品の販売では、客と近づいた接客が避けられない。マスクやフェイスシールドなどの着用、手指の消毒、試着室や店内のこまめな清掃・消毒といった基本動作を徹底するほか、デジタルツールも活用し、従来通りの満足感が得られる接客に務めている。
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パーソナルな対面販売に磨き
三陽商会「ストーリーアンドザスタディー」永瀬太一店長
昨年秋に立ち上げたばかりの三陽商会のパーソナルオーダースーツブランド「ストーリーアンドザスタディー」は10月中旬に銀座タワーから南青山の路面店に移転した。移転を機に3D採寸機などデジタルツールを活用した接客をやめ、人(フィッター)にフォーカスした店作りに力を入れている。
2カ月の休業を強いられたコロナ禍での外出自粛要請の期間中(4~5月)は緊急対策的にオンライン接客を含めたスタッフの勉強会に努めた。勉強会では最適なカメラ位置から話しかけるときの目線まで細部まで議論した。6月からはオンライン接客もスタート。「コロナ前に仕立てたことのある地方の顧客からは事前予約でスタッフを指名してもらった。もしくはメールのやり取りをしながら、生地を顧客の自宅に送って選んでもらうこともある」(永瀬太一店長)という。都内の顧客でも来店を避ける傾向があり、従来の店頭受け渡しではなく、納品時の配送も増えた。その際には、後日、電話で着心地を確認するなどのアフターケアを充実した。
同店の客層は男性8割、女性2割。男性客は20~50代のビジネスマンが中心。新規客には他社で満足できずに来店した人が多い。オーダースーツ市場が広がり、参入企業も増加したため、消費者の〝オーダー偏差値〟も向上している。だからこそ、スーツの質はもちろん、フィッターの人間力も問われるだろう。
通常、採寸するときも単にサイズを合わせるのではなく、どのポケットに何を入れているかなど普段と同じリアルなスーツの着用状態まで聞き出す永瀬店長。「これからのオーダースーツは顧客に無意識の要望を気付かせる能力が必要」と今まで以上にパーソナルな関係作りとアナログな対面販売に磨きをかける。
心の距離が近い接客スタイル
「英國屋」銀座3丁目並木通り店 川鍋宏和店長
老舗テーラー、英國屋の銀座エリアで3店目となる銀座3丁目並木通り店は4月初旬のオープン予定がコロナ禍により5月末にずれ込んだものの、「まずまずのスタートが切れた」という。英国屋全体でも10月の売り上げは堅調だった。
「コロナ禍でも当社の30万円台のオーダースーツを求める客層の需要は大きく変わっていない」と強調する。だからこそ、「信頼関係に基づいた接客と高品質な物作りという原点に回帰し、接客スタイルも変えてはいない」と川鍋宏和店長。
常連客の生活パターンまで熟知しているため、既存店の休業中には手紙や電話、ダイレクトメールなど顧客との心の距離が離れないように努めた。来たくても来られない地方客に対しては生地サンプルを宅配したり、製品の写真をスマートフォンに送ったりもしながらコミュニケーションを深めた。今は控えているが、自宅訪問しての時候のあいさつや催事の案内などでリアルにつながる取り組みも大切にしている。
店頭で生地を選んでもらったり、採寸したりと体に触れることもあるため、コロナ対策には細心の注意を払っている。入店時の手指のアルコール消毒と検温を徹底。接客時も対面で話さず、大声を出さないなど基本的な感染予防策を順守している。
開店前の30~40分をかけた掃除でも、テーブルはもちろん、ペンや電卓、メジャーまでアルコール消毒を欠かさない。コロナ以前から長年にわたり築き上げてきたスタッフと顧客の信頼関係があるため、「顧客の要望を聞きながら、スタッフとの会話やアドバイスを楽しみ、一緒に作り上げるというオーダースーツのだいご味を体験してもらう」(川鍋店長)ことが大事だ。
セルフで正しく着ける工夫も
「ピーチ・ジョン」新宿三丁目店 伊藤香央里店長
緊急事態宣言後に、「ピーチ・ジョン」の関東地区の店舗で最も早く再開した新宿三丁目店。1、2階の2層の大型路面店で品揃えも多い。「〝待ってました〟とばかりに、以前の土日よりも大勢のお客様が来てくれました」(伊藤香央里店長)
来店客は「在宅時間にECで見た商品を試したいという人が多かった」という。コロナ以前からの人気商品「ナイスバディブラ」や「いつでもジャストブラ」が現在も売れ筋の上位を占めることに変わりはないが、巣ごもり美容で注目される睡眠時用のブラジャーやバストケアアイテムなどもよく売れている。
実店舗への来店は、採寸やフィッティングサービスを期待している人が多い。ただ、10月中旬までは販売員が試着室に入って行うサービスは休止していた。
その代わりに試着室には、正しいブラジャーの着け方やサイズの測り方を分かりやすくイラストで紹介するポスターを掲示した。要望があればメジャーも貸し出した。それでも「半数のお客様から『確認してもらいたい』という要望があり、販売員が試着室の外から目視で確認していました」。
10月中旬にフィッティングや採寸のサービスを再開した。販売員はマスクとフェイスシールド、手袋を着用、客も手指を消毒し、マスクを着用する。時間は15分以内と決めて短時間で対応している。1人が終わると試着室は消毒する。
「新宿地区も一時期よりも客数が戻りつつあり、Go Toトラベルキャンペーンを利用して来る人も増えています」。だからこそスタッフには「今一度、気を引き締めるよう」に朝礼などで伝えている。
怖いのは〝慣れ〟と引き締め
トリンプ・インターナショナル・ジャパン 大丸東京店 竹内厚子ストアマネージャー
トリンプ・インターナショナル・ジャパンの百貨店の売り場の中で、「ワンランク上のブランド体験を提供する」というコンセプトを取り入れた「プレミアム・テイラレス」の日本初の売り場として18年に改装オープンした大丸東京店。予約制でカウンセリングやフィッティングを受けられる「トリンプフィッティング」の実施店でもある。新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言により一時期はフィッティングは中断を余儀なくされたが、「お客様からの要望が多く」、順次再開している。
オンラインで同じ商品が買える環境にある中でも来店する客は、採寸やフィッティングへの期待が高い。緊急事態宣言明けは、「自粛期間中に体形に変化があり、サイズを見てほしいという声が多かった」と竹内厚子ストアマネージャー。ほかにも、「在宅ワークの間はカップ付きトップで過ごしていたけれど、出勤を再開するタイミングでカウンセリングを受けたい」という人も多いという。買い物の頻度を減らそうとするためか、まとめ買いが増えたのもコロナ下の新しい傾向だ。休業明け以降の客単価は、前年を上回っている。
フィッティングを行う試着室は、入る前に客も販売員も手指を消毒する。互いにマスクを着用し、販売員はさらにフェイスシールドと手袋を装着する。使った後の試着室は消毒する。試着室内に元々設置してあったサーキュレーターで換気も行う。
「一番怖いのは、〝慣れ〟」。年末年始は、例年は客数が増える時期だが、「百貨店だからと信用して来店してくれるお客様の期待に沿えるよう、基本動作を徹底する」と気を引き締める。
《バックルーム》
店に行かなくても、何でもオンラインで買える時代になった。だからといって、リアル店舗や販売員による接客は必要ないのだろうか?
緊急事態宣言による休業が明けたとはいえ、新型コロナウイルスの感染リスクがなくなったわけではない。わざわざ来店するのは、実際の素材や商品に触れることはもちろん、販売員とのコミュニケーションで得られる価値を理解しているからだろう。人によっては以前よりもサービスに対する期待が高いかもしれない。
客とスタッフ双方の感染対策にも留意しながらのサービス継続は容易ではないが、販売員の知識・技術というソフト力を生かすことが、商品というハードをより輝かせる。
(繊研新聞本紙20年11月30日付)