羊毛販売・書籍出版の「スピンハウスポンタ」 羊が生み出す恵みを無駄なく使いたい

2023/08/14 06:26 更新


豪州で紡がれる様子を見て羊毛に魅了されたという本出さん

 羊毛を中心とした糸紡ぎ、織り、編み、フェルトなど、手仕事をする全ての人のために活動している「スピンハウスポンタ」。代表はウールクラッサー(ウール格付け人)でもある本出ますみさんが務め、羊毛の輸入販売やテキスタイル関連の雑誌・書籍出版などを手掛けている。育った環境や国によって体格も毛質も異なるのが羊。その多様な羊から生み出される恵みを共有し、無駄なく使うことを目指している。

(小坂麻里子)

格付けた羊毛を販売

 スピンハウスポンタは84年に設立。国内外の牧場から羊毛を年間で約600キロ購入し、毎年毛の品質や品位によって等級を決める格付けを行ったのちに販売する。海外は英国、豪州、ニュージーランドなどから輸入し、メリノをはじめ約16の品種を揃える。1頭の羊から丸ごと1枚につながるよう刈り取った、フリースの状態で販売する。

 入手したフリースは本出さんにより格付け採点表を作成。「柔らかい」「弾力がある」など四つの毛質の特徴に分類し、毛長などのデータを記載した採点表を一頭一頭に付与する。マフラー・ストール向け、ニット向けなど用途に合わせた毛質の羊毛を購入できる。

毛質の特徴で分類された羊毛を保管している

 本出さんが「原毛屋になろう」と思ったのは83年のことだ。豪州に行った際、知り合いの牧場で毛刈りした直後の羊毛を紡いだ経験がきっかけだった。糸が紡がれていく様子に魅了された。

 91年にはニュージーランドのリンカーン大学で農業・畜産を専攻。羊毛の種類や分類の仕方などを学び、ウールクラッサーの資格を取得した。その評価基準に基づき、入手した羊毛を格付けするほか、毛質の良い国産羊毛に金・銀・銅賞のリボンを贈呈する「国産羊毛コンクール」を毎年行っている。

 同コンクールでは、最適なウールに出会えるように、牧場とウール愛好家をつなげる場を提供する。牧場はコンクールに出品することで国産羊毛の毛質など情報共有でき、販路拡大が可能になる。愛好家にとっては優れた毛質の羊毛を購入できる。

 今年のコンクールは33種の羊毛が出品され、本出さんによる審査で格付けされた。販売開始当日には「0時になった瞬間に完売する品種があるほど大人気」だという。

国産羊毛の普及活動

 「暮らしを紡ぐ衣食住」がコンセプトの定期刊行物『スピナッツ』の発行も行っている。テーマは反毛や国産羊毛など様々だ。84年に30冊の印刷物から始まったスピナッツは、今では定期購読者は約800人にのぼり、1200部を年2回発行している。

「暮らしを紡ぐ衣食住」をテーマに年2回発行している『スピナッツ』

 国産羊毛の活用・普及活動も進める。本出さんは、日本の羊毛を使い日本の工場で作り日本のツイードを作る活動「ジャパンウールプロジェクト」の発起人の一人だ。20年から開始した同プロジェクトは牧場からの原毛を格付け後に買い付け、紡績・テキスタイル、製品化までを行う。「羊毛は人間の生活を守ってくれる大事な繊維。国内の工場に合わせた作り方で、無駄なく活用されることを目指したい」と話す。

(繊研新聞本紙23年8月9日付)



この記事に関連する記事