地方の個店が次世代に引き継がれることは簡単なことではない。それでも順調に事業を継承したり、支店を独自路線で進化させたりとさまざまな形で未来に残そうと奮闘するメンズ個店がある。前オーナーから20代で店舗を譲り受けた石川県金沢市の「トランジスター」と家業を業態転換しつつ守り抜く埼玉県川越市の「ガレージ」に、それぞれの過去・現在・そして未来の姿を聞いた。
トランジスター(金沢市)
継承⇒開拓⇒成長 ファンづくり徹底
トランジスター(オーバーチュア)は金沢市の中心街で20年以上営業を続けるメンズセレクトショップ。6年ほど前に元オーナーから現在、30代前半の小林裕貴代表が事業を引き継いだ。後輩だった井上敦嗣マネジャーらとの新体制では新たなブランドも開拓し、若い世代のファンも獲得するなど、コロナ下でも業績は右肩上がりを続けている。
小林代表は元々トランジスターの常連客でファッション好きが高じて18歳から販売員となり、徐々に店舗運営などを任されていった。元オーナーが立ち上げた当初はストリート系ブランドにも勢いがあった時代だった。当時から引き継いだブランドで今も同店の主軸となっているのが「ノンネイティブ」。小林代表がバイイングをするようになり、以前からの流れは継承しつつも、新規開拓したブランドも多い。
それでもノンネイティブは「当店のコンセプト〝生活に寄り添う服〟を体現するブランドであり、ミリタリー、ワーク、アウトドアなどいろいろな入り口を持ち、客層も広い服」なので、商品構成の核に位置付けている。「とにかくファイブポケットパンツのシルエットが美しく、ストレッチ素材じゃなくても立体的なパターンのため動きやすい。だから他のブランドを仕入れられない」というほどのほれ込みようだ。
ノンネイティブのほかにも、「マーカウェア」「オーベルジュ」「ホームレステイラー」「ポリプロイド」「テンシー」など着心地の良いのが基本だが、硬派で玄人好みのブランドが揃う。
この数年間で新規ブランドを開拓し、自店で扱うブランドも増えてきた。大人向けのマニアックなブランドから個性的な新進ブランドまでモード系以外のブランドは結構そろっている。それぞれのブランドに役割はあるものの、同店のフィルターを通すことで、来店した客に既存のイメージを越えて新たな出会いを提供できるのがリアル店の強みだという。
客層は、大学生から40代までと幅広いが、20代前半の男性客が目立つ。EC全盛の世の中の流れと反するわけではないが、小林代表を筆頭にスタッフ全員(4人)、リアルな店頭での対面販売を重視している。「作り手の熱量を含めてオーナーの思いをしっかり伝えることで、ブランドだけでなく店自体のファンづくりにもつながる」と言い切る。
もちろん、インスタグラムのフォロワーが1万2000人を超えるなどSNSでの情報発信にも力を入れている。井上マネジャーも元々店のファンから入社約8年で店頭の接客はもちろん、自身がモデルとなりインスタグラムなどSNSでの発信にも力を入れ、来店促進を図る。
「近い将来に同エリア内にもう1店増やす計画で、若者が集う金沢の中心街を守りたい」という思いが強い。この間、扱いブランドが増えたのでコンセプトによって店の商品構成を分ける。面でしっかり見せたいブランドは新店に移すことなども検討中だ。「コロナ下でもマンツーマンでの接客を求める若い世代が増えており、売り上げの伸びが今までやってきたことの正しさを裏付けている。だからこそ、個店の強みに磨きをかけたい」と、小林代表は次代を見据える。
ガレージ(川越市)
転換⇒進化⇒継続 中心はオリジナル
埼玉県川越市中心部の商店街「クレアモール」から一本入った路地にあるメンズショップ「ガレージ」(運営ナミキ)は、35年前に本社・本店がある熊谷市から進出し、時代の変化とともに業態転換してきた。10年ほど前、品揃え型からオリジナルブランド中心に進化した店作りにシフトした。
「地方のショップが生き残るため、大量生産する大手企業の商品とは真逆のカスタムメイドに近い少量生産のオリジナル商品に活路を見いだした」と、並木徹也店長は物作りにまで踏み込んだ。
当初は拡大戦略の拠点という位置付けもあったが、数年後には川越の地元商圏に根差し、熊谷の本店とは別の道を歩むことになった。00年ごろまではインポートカジュアルを軸にしてきたが、その後、20~30代向けの国内ブランドにシフト。ECが台頭してきた10年ほど前からオリジナルブランド「ガレージ.U.W」の比率を高め、カットソートップをはじめ、コートやジャケットなどアイテムを拡大し、9割近くを占めるまでになった。
並木店長は川越に同店を構えた数年後の90年代初頭に20代前半で入社。その2年後にはガレージ川越の店長として店舗運営を引き継いだ。若い世代を対象としたブランドを扱っていた頃は、「店頭スタッフも若かったが、長続きせず転職が多いのも悩みの種だった」と振り返る。自社ブランドにシフトしてからは、中間業者のOEM(相手先ブランドによる生産)企業などを使わず、デザイナーブランドも手掛けるパタンナーと連携し、店長自らが地元の縫製工場と直接やり取りしてオリジナル商品を作り上げていく。
自ら作り・自ら売るというスタイルのため、他人に任せられなくなっているのが現状だ。オリジナル商品のファンは「ブランドの有名無名は気にせず、モノの本質を追求する40代以上の大人の男性が多いという。そうした常連客の要望を聞きながら、並木店長自らの提案も加えたパーソナライズした商品開発を徹底しているから好評だと見ている。だからこそ、販売現場で自ら作った商品の良さや思いを伝えるだけでなく、顧客の要望を商品開発にフィードバックするためにも店頭での店長自らの接客が欠かせなくなっている。
創業者である父からは「そろそろ経営を代変わりしたい」と言われるが、50年以上の歴史があるセレクト型のナミキの熊谷本店とオリジナル中心の川越店では、「いずれ引き継ぐ時も来るだろうが、それぞれ運営手法や利益構造も異なるため、無理に統合するつもりはない。互いの良いところを伸ばしていければ」としている。
特にガレージ川越は「規模の拡大を追求せず、顧客起点のリアルなDtoC(メーカー直販)として進化していきたい」と未来を語る。
(繊研新聞本紙22年3月3日付)