【専門店】地元の魅力を再発見し店の個性に 地域貢献にも一役

2020/03/20 06:29 更新


 かつて地方の個店は東京で人気だったり、地元では希少だったりした商品を国内外から集めて紹介するのが大きな役割だった。だが、インターネットで何でもどこででも買えるようになった現在、人気の有力ブランドを揃えているだけでは通用しない。逆に埋もれた地域資源を再発見し、全国もしくは世界に発信することが求められている。それによって、個店の存在感が増すだけでなく、観光や地場産業の活性化など地域貢献にもつながる。

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◆リアルな体験を提供

山形県寒河江市の「ギア」

 山形県寒河江市のセレクトショップ「ギア」は1932年創業の紡績・ニットメーカー、佐藤繊維が運営する。ギアは同社が工場として使用していた2棟の石蔵をリノベーションし、15年にオープンした。地元の酒蔵から譲り受けた、移築から100年以上経った建物でファッション棟に入ると昔の紡績機や米国の古い工業用機械が什器として使われており、インダストリアルな異空間を味わえる。

 佐藤正樹社長は「ECで何でも買える時代に地方で何を売るべきか」を考え抜き、「自分たちがやるべきことは、地元である東北の伝統工芸や食文化を伝えていくこと」と、いい意味でファッションに縛られない店作りに挑んだ。中でも、ライフスタイル雑貨の存在は大きい。当初は世界の珍しいものを集める傾向が強かったが、山形をはじめとした東北の陶器や鋳物、木工、モダンな民芸品などを増やした。

 さらに自社の編地を使い天童木工と協業した椅子など、県内の物作り企業と組んだ限定品の開発が自店らしい品揃えにつながった。雑貨と同じ棟の奥には、イタリアンと和食の二つの飲食ゾーンもある。地元の農家が育てる有機野菜を使った料理が評判だ。地元の食品の物販にも力を入れており、物販を入り口にECの売り上げ拡大につなげ、実店舗の集客力もさらに高めていく。「地方ならではの、ここに来ないと得られない時間と空間を含めた体験を提供したい」(佐藤社長)と強調する。

地元の伝統工芸を集めたスペースを設ける

◆コミュニティーの場に

島根県出雲市の「グラッピーノ」

 島根県出雲市のセレクトショップ「グラッピーノ」は地域密着型の店づくりで地元の女性客を中心にコミュニティーの役割を担う。ファッションと雑貨の品揃えにカフェスペースを備えた空間で、地元の魅力ある良品を発掘・発信する。

 同店は昨年70周年を迎えた地方卸の松井(出雲市)の小売事業として03年にスタートした雑貨業態「オッピ」が前身。12年から本社へ移転し、現在の形になった。本社1階396平方メートルがレディスとメンズのアパレル、2階396平方メートルが雑貨、83平方メートルがカフェで構成する。

 「かつては自店のバイイングによって地元にないモノを集めることに力を注いできたが、これからは地域と連携し商品開発するなど出雲の魅力を全国に伝えることが地方のセレクトショップの大きな強みになりうる」と小売事業を統括する原田幹也店長。

 地域のコミュニティー拠点として広いスペースを有効活用する。地元のクラフト系作家の展示・販売をはじめ、若手カメラマンやアーティストの個展、カフェでの婚活パーティーを開いている。

 松井修一社長は「わざわざ足を運んでもらえるような顧客が五感をフル稼働する体験型の店づくりを追求しなければならない。そのためにも顧客とのアナログ的な人間関係の構築こそリアル店が生き残るには欠かせない」と小売事業の未来を見据える。

イベントも開けるカフェを併設する

◆多彩な土産グッズ開発

青森市中心街の「サークルアオモリ」

 青森市中心街でセレクトショップ「サークルアオモリ」を運営するブルージュ(石戸谷知倫代表)は地元の魅力をアピールするオリジナルグッズを企画し、自店のほか、名産品や文化を発信する複合商業施設でも販売する。地元の行政と連携し、東京の自転車ファッションのブランドと共同で、県内の自然を満喫できるアクティビティーツアーも企画する。

 石戸谷代表は「地元を県外、海外の観光客の人たちにも知ってもらいたい」との思いから、別会社を作った。東京のデザイン会社と組み、土産品の開発に着手している。「ステキな青森」をアピールするオリジナルグラフィックのTシャツやタオル、バンダナ、ポーチなどを企画。JR青森駅前で地元の産物・地域文化を発信する工房・マルシェ型複合施設「Aファクトリー」で販売し、売り上げを伸ばしている。自店でも扱うことで、観光客が入店するきっかけにもなるという。

 「小商圏の地方都市では多くのふり客を獲得するのは難しいため、地元密着型の店作りに徹する。特にメンズは薄く広くブランドを扱うよりも、深く濃い取り組みを通じて顧客の声を反映できるブランドに絞り込む覚悟を決めた」と石戸谷代表。東京のブランド「ナリフリ」や「MMA」(マウンテンマーシャルアーツ)に青森へ来てもらい、地元ファンと交流するイベントを定期的に開催したり、別注商品を販売したりする。

地元愛があふれるグッズを販売する

(繊研新聞本紙20年2月13日付)



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