《センケンクリニック》-業界人の健康相談-
【質問】昼間、眠くて困っています。睡眠時間は結構とっているつもりですが、仕事中に眠すぎて、何かの病気かと思うくらいです。(30代・男性・MD)
【回答】胃腸の弱い人が眠くなりやすいですね。春の極意は腹八分。食べ物を少なく、軽くすることと心得ましょう。(漢方薬局店主、薬学博士の根本幸夫さん)
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春眠暁を覚えず(中国唐代の代表的な詩人・孟浩然の『春暁詩』)というように、春は寝心地が良く、なかなか目覚められない体験をしている方々が多いことでしょう。
原因は、体から来るものと季節的なものと、大きく二つあります。
体の方では、胃腸の弱い人が眠くなりやすいです。特に、食後や風邪っぽい時など、だるくなって眠くなります。なぜかというと、胃腸が弱い人はこの時期、貧血になりがちで、頭に血が回りにくくなってしまうからです。会議の前には、お腹が空いているくらいがいいのです。普段、胃腸が丈夫な人でも、食べてすぐに眠ったり、こってりした物を食べたりするのは良くありません。いつまでも消化されずに、胃に血流がとられ、脳にまで血が回らずに眠くなってしまうからです。
頭部の血流には余裕があった方が良いので、対策としては、高カロリーの物や糖質を少し食べるのがコツです。高カロリーと言っても、脂っこく、消化しにくい物は駄目です。もちろん、お腹いっぱいもいけません。春の極意は腹八分。食べ物を少なく、軽くすることと心得ましょう。
季節から見ると、前にもお話ししたように、2~3月はホルモンの調子が変わる時期です。人の体が、冬用から夏用に変わる準備をするのですね。体の生理機能をとらえた「気・血・水」の考え方の中でも、3月は「気」が狂いやすく、不安定な時期と言えます。
また、漢方の基礎理論として、自然の移り変わりや事物の関係を「木(もく)・火(か)・土(ど)・金(こん)・水(すい)」で説明する五行説というものがありますが、こうしたことを基に、漢方では「春は病(やまい)肝(かん)にあり、頭にあり、血にあり」と言います。
草木が芽を出し、万物が生じる春は、「木」の気の勢いが強く、人の体ものぼせてくるということです。自然と血が頭に上りやすく、他の季節より胃腸に回りにくい時期というわけです。消化という、胃腸のお掃除要員が減っていて、いつまでも掃除しきれない状態が起こるのですね。したがって、眠る前2~3時間は食べないこと。夜は消化に良く温かい物を食べるようにしましょう。ただ、一般的には、逆のことをしがちです。胃が弱っているのに気づかないまま、疲れてだるいのは栄養の不足と勘違いし、油っぽい物を食べてしまう人もいます。しかし、これは胃腸の負担になりますから、やめましょう。
薬は、小建中湯(しょうけんちゅうとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を使います。ここにある「中」の字は、漢方では脾胃(膵臓=すいぞう、胃腸)を意味します。胃腸を立て直し(働きを活発にし)、免疫力を高めて、疲労を回復していくのです。服用すると、朝、すっきりと元気に起きられるので、薬局に相談してみてください。
【今日の心得】
- 至言「春眠暁を覚えず」
- 夏用の体の準備期間
- 春の極意は腹八分
- 会議前は少しの糖質
- 栄養不足は勘違い
〈回答者について〉
根本幸夫さん(ねもと・ゆきお) 東京・大岡山の漢方平和堂薬局店主。横浜薬科大学教授。薬学博士。