自分のことだけでなく、スタッフのこと、店のことと、悩みがつきない店長だが、いざ心が辛くなっても相談する機会や場はなかなかないもの。今回は、ファッションビジネス紙「繊研新聞」記者がこれまで聞いた店長のお悩み例を、メンタルヘルス対策のプロである臨床心理士の本多公子さんに相談し、具体的にアドバイスをしていただきました。
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Q1.スタッフに注意するとすぐへこむ。優しく言うと伝わらない。どうすればいいでしょうか?
A.へこみ方も人それぞれ。相手の個性に合わせ、注意の仕方を変えてみましょう。
一言にへこんでいる状態と言っても、相手によってなぜへこんでいるのかの理由が違います。例えば、
①怒られることに慣れてなく、怒られたという事象にへこんでいる
②怒られたことを人格を否定されたように捉えてしまう
③「私は接客業に向いていない」と社会適応に不安を抱えてへこんでしまう
など、様々なパターンがあります。普段の言動や思考パターンから判別し、それぞれの特性に合わせ、注意の仕方を変えることが大事でしょう。
パターン① 怒られたという事象にへこんでいる
「社会人として求められることが何か」が分かっていない場合があります。「私、褒められて伸びるタイプです」と自己を表現する方などはこのタイプでしょう。このタイプには、「会社として何を求めているのか」を伝え、その要望に対して「応えられていないことへの注意・指導である」ことを丁寧に伝えましょう。
パターン② 人格を否定されたように捉えてしまう
そもそも店長とその人のコミュニケーションがうまくいっていないケースがあります。ですので、スタッフからすると「私だから怒られるんだ」と捉えがち。関係がうまくいっていないので、店長が発した言葉自体へものすごく反応してしまう。だからこそ、注意の際には「起こっている事象の外に注意の幅を広げない」ことも大切です。
例えば、何かミスをした際にそのミスについてだけでなく、「いつもあなたは○○で」と言ってしまうと、「いつも○○で」に反応してしまいます。信頼関係があれば問題ないことも、ささいなことで関係の悪さが表面化することにもつながります。店長さんとしては自分の注意の仕方のスタイルを見直すことが求められます。
パターン③ 社会適応に不安を抱えてへこんでしまう
「洋服は好きだが接客が怖い」という人かもしれません。そもそも、接客業をしている人は「人が好きで友達も多く、コミュニケーションが得意」と思われがちですが、「コミュニケーションが苦手という弱点を克服したい」ために挑戦している人も多い。店長は、みんな接客が得意なわけではないことを改めて理解する必要があります。
また、可能な範囲でその人の得意な接客スタイルを育ててあげましょう。ガンガン行くタイプではないが、知識が豊富で洋服愛にあふれるタイプがリピーター作りに適していることもあります。店の立地や接客スタイルとの相性もあるので、上司にその人の適正を伝え、より強みが生きる環境を話し合うことも大事ですね。
先生紹介
ほんだ・きみこ 臨床心理士。消防庁緊急時メンタルサポートチーム専門家。PTSD専門研修(厚生労働省事業)名簿登載者。「心の健康にも予防が大切」をキーワードに、個人やカップル、家族への心理療法と、企業へのメンタルヘルスサポートを行うとともに、セミナー・講演会の講師としても幅広く活躍。