テクノロジーフル活用 外食チェーンが挑む働きやすさ

2019/05/07 06:30 更新


【販売最前線】ロイヤルホールディングス 「ギャザリングテーブルパントリー馬喰町店」 テクノロジーで次世代の店を 外食チェーンが挑む働きやすさ 新人も即戦力に

 人手不足に悩む小売業界だが、ファッション以外の産業に目を向けると、テクノロジーをフル活用して店舗の生産性を上げようとする先進事例がある。「ロイヤルホスト」や「天丼てんや」などの外食チェーン店を運営するロイヤルホールディングスが17年11月、東京・日本橋馬喰町に出店した「ギャザリングテーブルパントリー」。この店では完全キャッシュレスをはじめ、調理や注文など店全体で省人化のオペレーションに挑戦している。

(石井久美子)

完全キャッシュレス

 飲食業は、アパレル業界同様に店舗の人材採用が大きな課題となっている。〝作る〟という工程がある分、より労働集約型になりがちだ。ギャザリングテーブルパントリーが目指すのは、「店長をはじめとした従業員への負担を、いかに軽減した仕組みを作るか」(野々村彰人常務取締役イノベーション創造担当食品事業担当)。次世代のビジネスモデルを確立するための、実験的店舗との位置づけだ。

17年11月、東京・日本橋馬喰町にオープンした

 このため、人手がかかっていたいくつもの業務をデジタル、テクノロジーで置き換えた。キャッシュレスが今ほど世間で注目される前から、完全キャッシュレス決済を導入したのもその一つだ。電子マネーかQRコード、クレジットカードが選べるが、現金は一切使えない。入店客にはこのことを必ず説明する。働く側の目線で見ると、つり銭の準備などの一連の作業がなくなり、従来は30~40分かかっていたレジ締めの時間もほぼゼロになった。お金に関する帳票や報告書も消えた。特に店長にとっては、「金庫に現金があるというプレッシャーや、金額が合わないことでの人間不信から開放される」とみている。防犯上も安心だ。

電子マネーかQRコード、クレジットカードで決済。現金は使用できない

コックの技術を再現

 グレーやイエローを基調にしたスタイリッシュな店内では、お酒に合う前菜やパスタなどのおしゃれなメニューを提供しているが、実は厨房に大きな秘密がある。この店にはガスコンロなどが無く、かわりに置いているのがパナソニックの調理機器「マイクロウェーブコンベクションオーブン」。セントラルキッチンでコックが調理したものを冷凍して運び、店ではこのオーブンに入れてボタンを押すだけ。「調理の時間と場所をずらしている」イメージという。機器の細かい調整、研究を重ねることで、プロの火入れ技術を再現した。料理ごとに最適な調理法が登録されているので、できあがりのばらつきが無く、誰でもすぐ作れるようになる。料理にもよるが、調理時間は2~3分程度。皮がぱりっとしたグリルチキンも、ふわふわのフレンチトーストも思いのままだ。

ボタン一つで最適な調理ができる 「マイクロウェーブコンベクションオーブン」

 もともとこの場所にあったのは携帯電話ショップで、飲食専用の物件ではなかった。火や油を使わないため、煙を処理する大掛かりな設備が要らず、出店コストも下げられる。掃除も楽だ。

 注文の仕組みも効率化した。お客はテーブルでiPadを使い、カタログ風のメニュー画面からセルフオーダーする。スタッフは腕にアップルウォッチを付けており、注文や呼び出し、会計などがあると通知されるシステムだ。

友人や家族で気軽に利用できるメニューを揃える。注文はiPadを使うセルフ式

予想以上の応募

 同店は完全キャッシュレスの店として注目されたが、決済だけでなく「店の業務をトータルで見直すことで、初めて働き方改革につながる」と強調する。報告や管理業務に追われなくなれば、「競合店のランチメニューを見に行く、その地域のニーズを考えるなど、店長の仕事はお客様を増やすためのクリエイティブな方向に変わる」

ランチタイムは素早く支払える電子マネー、金額の大きいディナーはクレジットカードの利用が多い。QRコードは運営会社のキャンペーンがあると増える

 採用や教育にも変化がありそうだ。「スタッフ募集に対して、これほどの応募が集まるとは思わなかった。仕事で覚えることもストレスも少ないので、働きやすそうと感じるのかもしれない」。新人も短期間で戦力になるため、定着率にもつながるとみる。「新店を出す際、悩ましいのが店長を誰にするか。しかしこの運営モデルなら、キャリアを問わずやる気のある人材に任せられる。これは大きな強み」

 料理の味と価格には自信がある。今後の課題は収益性だ。問屋街である馬喰町への出店は話題性があったが、もっと数字を伸ばすには「出店場所を変えるか、もう1店出すことも検討したい。都心にも出店できたら」。厨房まわりの設備がシンプルなため、物件の選択肢は広いと考えている。

 テクノロジーを活用し人がすべき仕事に集中しやすくする、という点はファッション小売業の方向性とも共通する。同店の場合はそのために物理的な作業を減らすだけでなく、心理的な効果も期待できることが興味深い。現金の管理など、ミスへの不安は人を消極的にさせる。新しいチャレンジを引き出す環境こそが、店舗の生産性を左右するのかもしれない。

グレーとイエローを基調にしたスタイリッシュな店内

(繊研新聞本紙19年3月29日付)



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