服屋はもっとリスクを取って闘わないと

2016/01/01 10:19 更新


 効率や売れ筋の追求が行き過ぎて、ファッション業界全体に閉塞感が漂っています。そんな今だからこそ、未知数のパワーを秘めた若手ブランドの発掘や育成は、ファッションに楽しさを取り戻す鍵の一つになり得ると繊研新聞は考えます。

 リステアの柴田麻衣子クリエイティブディレクターは、日本の大手小売りのバイヤーの中で、最も精力的に国内外の若手を見ていると言っていい存在。柴田さんに、「ブランドを育てる」ということについて語ってもらいました。後半は、柴田さんが初期から見続けている3人の注目新進デザイナー達との対談です。

 

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柴田さん右向き


■売れるものはあるから、若手にも予算は割ける

 元々リステアがラグジュアリーブランドを集めてきたのは、若手ブランドを仕入れた時に、このセレクトは正しいっていう説得力を持たせたかったからです。ビジネスだからもちろん儲けなきゃいけないけれど、売り上げを作る面では、若手でなく他のもので売ればいい。

 著名なブランドやバッグなど、安定的に売れるものはたくさんありますから。それらを売れば売るほど、少しでも新しいブランドに予算を割くことができる。そういう風にしないと、誰が新しいブランドを買うんですか?

 毎シーズン、国内外の新進ブランドから膨大な数のメールが届きます。一斉送信で何の工夫もないものには返信しませんが、ちゃんと私宛てで、ブランドへの熱意や愛情があって、文字のフォントや画像にセンスを感じたら、リステアとは雰囲気が違っても返事はします。フラッと展示会にも行きますよ。デザイナーに、「本当に来た!」って驚かれることもあるくらいです。

 海外では今、若い才能を求めるムードが強まっています。ロンドンブランドに勢いがあるのもそうだし、ラグジュアリーが若いデザイナーを起用するのもそう。

 (市場が)画一化してしまったので、まっさらな若手の、まっさらなアイデアじゃないと根本的には変えられないってことだと思います。ロンドンが元気なのは、若手がバイヤーのところにまで届くシステムを、国を挙げて作っている面も大きい。
 
■このままでは世界から遅れてしまう

 国内でも新しい才能が出てきています。そこに対して誰かが手を差し伸べないと、(作る側も買う側も)好きでファッションを始めたはずなのに、嫌いになって終わるというパターンになってしまう。今まさに、業界ではそういう状態が続いているじゃないですか。業界全体でインキュベーションのシステムを作るとか、なんとかしないといけない。

 海外では、セルフリッジのような大手小売りでも、すごく早い時期から若手ブランドを仕入れます。そういう挑戦的な姿勢が日本の大手企業にも増えるといいですね。

 (効率や売り上げを求め過ぎた結果)ニュートラルになってしまった今、服屋はもっとリスクを取って闘わないといけないと思う。リスクを取らないことで、日本のファッションが世界から遅れてしまうことが一番怖い。海外に行けば行くほど、中国、韓国などのバイヤーやエディターのパワフルさを感じて、危ないなって感じます。


やりたいことは、芯を持って貫くのが大事——柴田

 

大野陽平右向き
大野
 16年春夏コレクションはメディアに取り上げられることが増え、柴田さんにも買い付けてもらいました。でも、僕の周りの女性陣からの評判は散々です。「着れない、硬い、強い、洗えない」って。「この服を着て、彼女がデートに来たらどう思う?」とも言われた。僕がもしジェレミー・スコットだったら、こんな風に強い服を出してもいいんだろうけど…。

 

大野陽平 「ヨウヘイ・オオノ」デザイナー 文化服装学院、文化ファッション大学院大学を経て、英ノッティンガムトレント大学に留学。15〜16年秋冬にブランドスタート。16年春夏からリステアで販売する。

 

柴田 だったらジェレミー・スコットになればいいんじゃない?ジェレミーの服だって、最初は「えっ!?」って思う人がいたと思うけど、それが常識になるのがファッションです。硬いって思われているものが、何年後かには硬くないかもしれない。ネオプレンだって元々はダイバースーツの素材だったのに、当たり前のように街で着るようになりました。

 本当にやりたいことだったら、何と言われようと芯を持って貫くことが大事です。ビジネスだからもちろん売らなきゃいけないけど、今は普通のものを作ったって、そういうものはどこにでもあるから売れません。価値を作るために、個性的なことをするのは悪いことじゃない。

大野 先日、ある店のオリジナルで、クオリティの高いベーシックなセーターを見ました。価格も買い易くて、本当は僕も普通に欲しいんですよ。でも、これを買ったらおしまいだなと思った。こんなものは思想の無い人が着る服だ!って。というのは言葉が強過ぎますが、要は、安くて質のいいものなんて、今はいくらでもあるって改めて実感しました

イン・チソン左向き2
イン
 僕もそういうことが今一番大きな悩みです。今はセレクトショップ自体が、センスの入った買いやすいオリジナルを持っています。僕が思うには、セレクトのオリジナルみたいな服がいま日本で一番売れている。そういうものを真似したら僕のブランドも同じになってしまうし、一方でそうしないと売れないかもしれない。そんな風にぐるぐると考えていたけれど、16年春夏物を柴田さんや他のバイヤーが買ってくれたことで、もっとやりたいことをやってもいいのかって思いました。

 

イン・チソン 「イン」デザイナー 韓国出身。文化服装学院、文化ファッション大学院大学を経て、15年春夏に東京をベースにブランドを立ち上げた。16年春夏から221リステアで販売、バーニーズニューヨークの新進ブランド協業企画にも選ばれた。

 

柴田さん左向き
柴田
 ブランドを続けるためには、売れるものを作っていかなくてはいけません。だからと言って、皆さんがセレクトのオリジナルにあるような普通のものを作り始めたら、バイヤーは買わないでしょうね。大企業のデザイナーにはできなくてあなたたちにできることは、1つ1つの服についてすごく考えることです。

 企業のデザイナーは、毎月売れるものをどんどん出すことが求められます。1つ1つに愛情が無いわけじゃないだろうけど、魂が入っているとまでは言えないと思う。だから、なんだかイイ感じに仕上がってはいるけど、でも…という感じになる。だからこそ、インディペンデントなデザイナーには、力が続く限り愛情を込めることを忘れずにやって欲しいなと思う。

 


キワキワを狙って、相手側のコートに落としたい——大野

 

村上登希子2
村上
 服作りを始めた当初は、本当に作りたいという思いが強くて始めました。やりたいものを作っている時はすごく楽しいです。バイヤーさんなどの意見を聞くと、うちの店の顧客とは雰囲気が違うかな、と言われることもあります。だからといって、他と同じ服を作っていてもしょうがないなと思います。

 

村上登希子 「トキコ・ムラカミ」デザイナー 文化服装学院を経て、英セントマーチン美術大を卒業。「チャラヤン」のデザインチームで2年間経験を積んだ。帰国後、15年春夏にブランドを立ち上げた。

 

柴田 誰が着るかっていうことがはっきりしているといいですね。誰も着ないっていうのはもちろん問題だけど、うちの店の客は着ないけど、こういうタイプの人なら着るっていうのがはっきりしていれば。そんなの普通の人は着なくない?っていうアイテムであっても、誰なら着るっていう図がかけていれば、マーケットにがっちりはまる。自分が好きな、架空の人では駄目です。

イン たとえば、ヨウヘイ・オオノを買い付ける時、そういう女性像が見えたっていうことですか?

柴田 たまたま見えたのかもしれません(笑)シーズンも良かったのかもしれない。海外でも「ヴェットモン」みたいな新進ブランドの勢いが強まっています。90年代に注目されたようなインディペンデントなデザイナーのパワフルなもの作りを、世の中が再び欲しがっているような感覚が最近しています。

大野陽平左向き
大野
 僕もヴェットモンは大好きです。何がいいかって、あのキワキワをやっている感じがいい。ヘンテコな服なんて世の中にいくらでもあるけど、ヴェットモンはそれをマルジェラ仕込みのテクニックと素材でなんとか成立させている。テニスの試合で、ネット際のギリギリで相手側に落としている感じです。

 僕もキワキワを狙っているけど、実力がないから今はまだ自分のコートに落ちてしまっている。多くの女性にとって、ヨウヘイ・オオノはまだギリギリアウトなんです。それを、僕はキワキワを狙って相手側のコートに落としたい。そんな思いでブランドをやっています。

欧米の市場は、フレッシュな発想を求めていると思う——村上

 

村上登希子1
村上
 日本に比べて欧米の市場は、荒削りであっても若手のブランドを見てくれる。新しいデザイナーに、フレッシュな発想などを求めているのだと思います。日本はどちらかというと、クオリティーや値段など、よりビジネス的で具体的なことを重視するように感じています。

イン 日本は、マス向けのブランドのパターンでもすごく細かい。韓国やニューヨークは、もっといいかげんなものも多いです。そういう意味で、細かくちゃんとできるのは日本の強みではあると思う。今では有力な欧米のブランドでも、最初の頃は「こんな縫製なのか」っていうものもある。それでも続けたら、クオリティーは上がっていくものだと思います。

柴田 確かに、日本は安心安全を求めるムードが強いかもしれません。私自身は、パターンがきれいだと思って服を買うんじゃなくて、着た時にテンションあがるかどうかで買います。細部の質よりも、まずは発想やアイデアがキーになる。海外ブランドは細かいところまで詰めて作っていない部分もあるけれど、でもわくわくするところがある。

 たとえば「JWアンダーソン」も、最初のうちは本当にわけのわからないものがありました。「何だこれは?」って。でもそれが面白いんです。これはどうやったら着れるんだろうとか、いざ着てみたら可愛いじゃないかといったように、少しずつ探っていくんです。

大野 確かに、海外の若手ブランドは縫製が雑だと感じるものもあります。でもやっぱり“匂い”がするっていうか、この先どうなっていくんだろうっていう風に期待させる部分がある。若いブランドなのに変に完成されていたり、こざっぱりまとまっていたりすると期待感があまり無いです。

 僕も今は、生産背景も整っていないしラグジュアリーと呼べるものは作れないと思うんですけど、でもそういう期待感や未知数のパワーは失っちゃいけないと思っています。ちょっと怪しいって思わせるような、人の気持ちを惹き付けることをやらないとダメなんだって。

 


海外の店は情報収集が早いと感じた——イン

 

イン・チソン右向き
イン
 どうやってブランドを知ったのか分からないのですが、16年春夏は、香港のITから商品を見たいと連絡がきました。日本のバイヤーは、僕からあまり連絡できていない点も大きいけど、メールを送っても返事が来ないことも多いです。海外の店は情報収集が早いなと感じたし、同時に嬉しかったです。

柴田 それって寂しいね。それに対して日本は危機感を持った方がいいかもしれない。日本のブランドなのに、海外の人の方が知っているっていうのは寂しいです。知ってて買わないというのなら別だけど、そもそも知らないというのは寂しい。それでは、アジアを中心としたハングリーな海外バイヤーに負けてしまいます。


 アジアはバイヤーだけでなく、デザイナーの勢いもすごいです。ロンドンに留学している中国の若手とか、すごく勤勉でどんどん前に進んでいます。今まで取れなかったものを取り返そうみたいな勢いが、アジアにはある。海外に行く度にそう感じています。

リステア立ち姿

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