楽天ファッション・ウィーク東京21年秋冬は、想像をかき立てるストーリー仕立てのプレゼンテーションも相次いだ。リアルクローズを軸とするなかで、国内産地の技術力が生かされた多彩なテキスタイルが圧巻だ。
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〈フィジカル〉
アツシナカシマ(中島篤)は、普段使いのワードローブに、日本画家の曾祖父、楚水の絵画を融合した。2配色のグラデーションの下地に墨絵のような風景画をプリントしたMA-1に、草花を描いたシャツや膝下プリーツのスカート。風刺画のようなコミカルさも交え、コントラストを利かせた柄オン柄でアーティーに見せた。ただ、異なる要素を盛りすぎな一面も感じた。
リコール(土居哲也)は、土居が幼少期に訪れたアメリカの記憶と、フランスの伝統をミックスした「リフレッピー」がテーマ。古着を解体してドッキングさせる手法を軸に、タータンチェックのダッフルコートをレイヤード仕立てにしたり、たくさんのフードを付けてボリュームシルエットを出したり。
ミリタリーのブルゾンは、表地をめくってオレンジのキルティングをむき出しに。チュールのドレスを合わせ、フレンチの原点のオートクチュールのシェイプで見せた。ライブストリーミングは、カラフルな古着を巻き付けた、多種多様なモデルたちが手を取り合って歩くシーンで始まり、フィナーレは架空のキャンプファイヤーを楽しんでいる演出でピースフルな余韻を残した。
(須田渉美)
(リコールの写真は加茂ヒロユキ、アツシナカシマはブランド提供)
〈デジタル〉
シュープ(大木葉平、ミリアンサンスフェルナンデス)は、トランスフォーメーションをテーマに、フューチャリスティックなムードのリアルクローズを見せた。古びた倉庫のような空間のランウェー。機能素材を使ったブルゾンやパンツは、ファスナーが開閉して形が変化する。カットラインがジオメトリックなテーラードアイテムに、メタリックな素材のブルゾン。未来的なイメージを立たせるなかで目を引くのは、ダメージ加工のデニムのアイテム。過去を振り返るように、風化した表情にエレガンスも感じさせた。
メアグラーティア(関根隆文)は、アンエクスペクテッドをテーマにしたコレクションを、地底の住人のようなオーケストラが着用して演奏する動画を制作。男女のモデルたちは布を巻き付けたヘッドピースをかぶる。指揮者はタイダイのコーデュロイを使ったブルゾンのセットアップ。バイオリニストは、袖のスリットが開閉できるサキソニーチェックのシャツジャケット。ぼんやりと夢のような映像の中で、クラフト感のあるテキスタイルの強さが浮き立って見える。クラシックのメロディーとともに、人のぬくもりや未来への希望を伝えた。
初参加のペイデフェ(朝藤りむ)は、無重力のユートピアをテーマに、ガーリーで神秘的な魅力も感じさせるモデルが宙を舞う動画を制作。布のアートワークを原点にする朝藤は、独創的な世界を表現したテキスタイルを国内産地で作ってもらう。初挑戦したゴブラン織には、空を背景に昆虫や飛行船が繊細に描かれ、コートやパンツとなってアートを着る感覚が楽しい。イメージだけに止まらない、プロダクトの強さが備わって今後の成長に期待が持てる。
(須田渉美)
コウザブロウ(赤坂公三郎)は僧侶からイメージした服を見せた。「モンクウェア」と題したコレクションは、僧侶を思わせる青年たちがカジュアルな服を着て生活する映像。和の要素というよりは、実用的なカジュアルアイテムが目立つ。パッデッドジャケットとパンツの落ち着きのあるセットアップ、スポーティーな配色のトリミングを利かせたトップ、カジュアルなスウェットのパーカとパンツの上下。そんな飾らないスタイルで過ごす坊主頭の青年たちから、飾らないけれども実直な雰囲気を感じられる。コロナ禍を経て、デザイナーの赤坂は内省的な気分へと到達したのであろうか。そう思わせるほど、過剰に主張せずつつましやかなたたずまい。しかし、丸坊主頭に唯一、ピアスだけは外さない。
(小笠原拓郎)