9月5日、日本経済新聞などの主要な全国紙と地方紙35紙にこんな広告が掲載された。「ユニクロのフリースが2990円になる理由」。21年秋冬まで税込み1990円と、94年の発売当時とほぼ同じ価格で販売してきた主力商品を22年秋冬から2990円に値上げする理由を説明する内容だ。
■品質犠牲にできない
円安、原燃料、物流費の高騰など調達コスト上昇が続き、ファッション業界は21年半ばから値上げを迫られていた。だが、長らく所得が増えていない日本で、値上げは危険との見方は強かった。14~15年に同じ理由で値上げを実施した際、消費者が受け入れず、売れ行きが低迷したからだ。
生活者の懐具合を考えて「値上げは極力抑制したい」との思惑は22年に入ると変更を余儀なくされた。21年末に1ドル=113円台だった為替レートが4月に120円台、6月に130円台と急速に円安が進んだ。ユニクロは22年秋冬商品の値上げを6月に発表した。
フリースのほか、ヒートテックやウルトラライトダウン、カシミヤセーターなど定番アイテムが対象で、3~5割程度の値上げとなる商品もあった。ユナイテッドアローズも22年秋冬物で各ストア業態の2割相当の商品を平均15%値上げするとの考えを明らかにした。
ユニクロは冒頭の広告で、値上げしたフリースに再生素材を使い、生地の目付けも上げるなど付加価値を高めた点を強調し、ウェブサイトで製造コスト上昇の詳細も説明した。値上げの理由をあえて告知した理由は「価格を維持するために品質を犠牲にするという選択肢はない」からという。
■原価抑え据え置きも
22年秋冬に値上げを実施したのは、2社に限らないが、各社の決断を生活者が果たして受け入れたのか、現時点では正確に判定もできない。11月は気温が下がりきらず、冬物実需が本格化しなかったためだ。12月末~1月初旬のセール入りを控え、プロパー販売できる期間は残りわずかだ。
10月に一時150円台を突破した為替レートは、12月に入って130円台半ばまで戻したが、年初の水準と比べれば依然2割近い円安の状態だ。このため、ユナイテッドアローズは23年春夏物も「商品のクオリティーを伴う形で一定の値上げは実施せざるを得ない」との考えを示す。
ジーユー、無印良品は素材や生産背景の集約化で22年は値上げを回避した。ワークマンは1年前に決定した販売価格で売れる最大数量を工場に発注することで、23年3月までは価格を据え置く。
値上げか据え置きか、どちらを選ぶにせよ、買う、買わないの判断は物価全般が上昇し、節約志向を強めている生活者がすることだ。服の商売には価格と価値のバランスがこれまで以上に厳しく問われる。
(繊研新聞本紙22年12月8日付)