12回にわたって連載中の、架空の百貨店インショップ「ルクリア」の店長、麻紀の成長の物語。副店長の美穂、先輩でスーパーバイザーの瞳、百貨店フロアマネジャーの大谷さんが登場します。
前回、店頭の色を統一することで、お客の関心を引く綺麗な売り場を作ることが出来ました。今日の麻紀はさらに一歩踏み込みます。
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ある日、フロアを回っていた大谷マネジャーがルクリアの前で足を止め、麻紀に話しかけた。
「ちょっとこっちに来てくれるかな」
少し離れて、ルクリアを眺めながら続けた。
「ここからルクリアを見ると、VPをはじめ、目につく場所に出ている商品の色が統一されていて美しいね。お客様は引き付けられて近づいて行くだろう」
そう言いながら、大谷マネジャーに促され、麻紀もルクリアの方に歩いて行く。
「ここからが問題だ。お客様を引き付けたはいいけれど、さて、ここで何を伝えたいのかな? 何を売りたいのだろう」
「売りたいものは春物のコートです」
「なるほど。このボディーはコートを着ているけれど、むこうはジャケットだね。これはおかしい。コートを売りたいのなら、コートのバリエーションを見せるべきで、いろいろなアイテムを見せるべきではない。あと、コートの何を伝えて、何を売りたいのか、どう考えている?」
そう聞かれて麻紀は答えた。
「撥水加工や花粉防止などの機能性に着目しました。旅行に最適な薄手で軽いコートや、リバーシブルで使えるデザイン性の高いコートもあるのですが、まずアピールしたいのは機能です」
「うーん…、果たして伝わっているだろうか。接客では伝えていると思うけれど、伝えられる売り場になっていない」
前面の視認性の高いところは色を統一し、きれいな売り場ができたように見えるけれど、購買に結びつかなければ、お客様を引きつける意味がない。
「相変わらず厳しいところをついてくる」と思いながら麻紀はうなずいた。
「伝えるためには、商品、もしくはPOP(店頭広告)を使うこと。商品を使う方法は二つあって、一つはディスプレー、もう一つはテーマの該当商品を前面に集めて、塊を作るんだよ」と大谷マネジャーは続けた。
「わかりました。では、まずむこうにあるボディーにもコートを着せます。撥水加工や花粉防止などの機能はPOPで伝えるということですよね?」
「そうだ。色や柄、デザインは見れば分かるが、機能は見ただけでは分からない。POPか口頭でないと伝わらないからね」
麻紀は早速、POPの準備にとりかかった。
品揃えを伝えるためには、全てを伝えようと欲張らないこと。一部だけでも確実に伝えようと考え、テーマを決めることだ。
品揃えの伝え方には二つあり、一つは商品を使う、もう一つはPOPを使う方法だ。商品で伝えるためにはディスプレーして見せる方法と、該当する商品の塊を作って存在感を高める方法とがある。
商品だけで伝えられる場合もあるが、POPを使わないと伝わらない場合もあるのだ。
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※この物語はフィクションです。実際のショップ、人物とは一切関係ありません。
(繊研新聞2013年の販売・リテイリスト支援のぺージに掲載されたものを元に編集しています)