ただ新聞(若月美奈)

2013/09/12 12:07 更新


今、ロンドンでは新聞がただで読める。ネットではなく従来の紙、それも高級日刊紙やカラー付録がついた日曜新聞が、である。個人的な購読紙を紹介すると、月曜日から金曜日はデイリー・テレグラフ(英国1の発行部数を誇る日刊紙。読売新聞のような存在)に、時々デイリー・メール(タブロイド紙。といっても、サンのようなゴシップ紙ではなく、まじめな新聞)とガーディアン(ベルリンサイズという中盤の日刊紙。日本でいえば毎日新聞)が加わる。

さらに週2、3日、夕刊紙のイブニング・スタンダードも読む。土日は、紙面数もどっと増え、カラー別冊付録がついたデイリー・テレグラフ土曜版とサンデー・テレグラフ。このうち、イブニング・スタンダードは2年前からフリーペーパーとなり、夕方になると街角で配布されているが、他紙は通常定価で売られている。それがどうしてただなのか。大手百貨店グループ、ジョン・ルイス傘下のスーパーマーケットチェーン、ウエイトローズの顧客獲得作戦のおかげである。


 
マークス&スペンサーと並ぶ高級スーパーとして知られるウエイトローズ


英国には日本のような宅配システムがなく、新聞はニュースエージェントと呼ばれる新聞や雑誌、お菓子などを売っている駅の売店を大きくしたような路面店や、スーパーマーケット、文具・書籍チェーンなどで買う。日本の宅配システムに慣れていると不便なようだが、毎日違う新聞を選ぶこともでき、それはそれで便利だ。もっとも、ご他聞に漏れず、どの新聞も昨今の発行部数の下落は深刻である。

一方、スーパーマーケットも、1位のシェアを誇るテスコに、アズダ、セインズベリー、モリソンズと続く4大スーパーの価格競争は激しく、しのぎを削っている。そうした中、ウエイトローズは市場占有率、店舗数ともに6位と規模こそ小さいが、このところ業績をぐんぐん伸ばしている注目のチェーンで、それにはユニークなストアカードの導入が一役かっているようだ。

通常ストアカードは、購買金額に対してポイントがたまり、それに見合う金額が値引きされるが、ウエイトローズの「マイ・ウエイトローズ」カードにはそうしたポイントシステムはない。カード保持者だけ値引きされるキャンペーン商品をもうけるといったことも行っているが、特筆すべきは、新聞とのコラボである。


 
なんと、マイ・ウエイトローズカードを見せると、何も買わなくても毎日一杯、ホットコヒーや紅茶がただでもらえる。
カプチーノやカフェラテはなかなか美味しい


つまり、5ポンド(約750円)以上の買い物をしてこのストアカードを渡すと、デイリー・テレグラフ(平日£1.20、土曜版£2.00)、ガーディアン(平日£1.40、土曜版£2.30)、デイリー・メール(平日£0.60、土曜版£0.90)、サンデー・テレグラフ(£2.00)、オブザーバー(ガーディアンの日曜版。£2.50)、メール・オン・サンデー(£1.50)の中から好きな新聞が無料でもらえるのだ。システムとしては、レジでは一度定価で加算され、その後クーポンという形でレジに用意されたバーコードがスキャンされて全額値引きされる。


 
9月7日付のデイリー・テレグラフ。土曜版とあって、日曜新聞と同様のボリューム。本紙に加え10冊の別冊、カラー付録のテレグラフ・マガジンがつく。そしてさらに、この日はファッション特別カラー別冊のテレグラフ・ファッションも入っていた。ページ数はあまりに多くて数えるのを断念。重さ1.8kg。 


テレグラフ・ファッションの「今ファッション界で話題のデザイナーとコレクション」というページには、そのトップに「サカイ」の阿部千登勢が紹介されている

 
9月7日付のガーディアン。こちらもボリュームたっぷりの土曜版。別冊カラー付録の ガーディアン・ウイークエンドはファッションスペシャル号で、表紙は中面でインタビューとファッション撮影が掲載されているナオミ・キャンベル。重さ880g 


ベルリンサイズは、ブランケット版と比べてこんな大きさ


冒頭で書いた購読では、1週間に平日10紙、週末2紙でその新聞代は合計12ポンド(約1800円)になる。2年前まで1部£0.50だったイブニング・スタンダードも計算に入れると、1ヶ月8000円以上の新聞をただで読んでいることになる。

秋冬商品も立ち上がり、2014年春夏のコレクションサーキットもスタート。コレクション速報が連日掲載される本紙、そしてファッション誌に引けを取らない秋物のモデル撮影やトレンド商品紹介が掲載されるカラー付録を、お財布を気にせずがんがん楽しもう!



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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