ミュージアムへ行こう!vol.3

2015/08/17 09:03 更新


 この連載では、デザインやもの作りのインスピレーション源となるような、知る人ぞ知る服飾系ミュージアムを紹介します。

◇  ◇

岩立フォークテキスタイルミュージアム(東京・目黒) 

時代を超えて共鳴する色や柄


 人や動物をかたどった刺繍、霞のように透ける手織り――。中南米やアジアで生活していた民族の伝統の布や装飾品を専門にする、岩立フォークテキスタイルミュージアムは、東京・自由が丘駅から徒歩2分、ショッピングストリートに面したビル内にある。07年に開館、独自のテーマに基づいた企画展によって各地の文化や特色を紹介する。企画展は、直近の「白の世界」で通算19回目。8月6日からは、中央アジアの刺繍に焦点を当てた企画展「華やかな刺繍布スザニ」を開く。11月中旬までの予定。


プリミティブなパワー

 企画展で見せるテキスタイルは、ほんの一部にすぎない。同じビルの中で保管している収集品はインドから約4000点、日本を含むその他の国で3500点と膨大な数になる。岩立広子理事長が半世紀にわたって個人で集めてきた希少な染織品のコレクションだ。

 最初の出合いは、美大で染色工芸を専攻し、染織作家として活動していたころ、本で知った南米のプレインカの布だった。「インカ帝国の前の時代に作られ、長い時間を経ているのに愛らしく、身近でチャーミングなものだったんです。当時、私は1、2年で新作を出し続けなければいけない創作に疑問を感じていました。よりいいものを作るには、それだけ時間がかかります。情報の少ない時代で憧れが募り、現地に行って確かめることにしました」

 65年にぺルーの首都リマに赴き、高原地でアルパカやラマなどラクダ科の毛を使った色鮮やかな染織物を目にし、プリミティブなパワーを体感した。「幾何学柄や動物柄が並び、グラフィックのような、そぎ落としたデザインが新しく見えた。生み出す形は違っても、誰が見ても感動する形や色は太古の時代から存在していたのだろうと思いました」。先祖代々受け継がれたものに、共鳴する何かがある。時代をさかのぼって根本的なことを追い求めることに面白さを感じたという。

ステッチやアップリケの手法も丁寧に解説する。当初から集めた布の情報を記録して分類・整理してきた
ステッチやアップリケの手法も丁寧に解説する。当初から集めた布の情報を記録して分類・整理してきた

インドを80回訪ねて

 70年には、アジア大陸の中で染色織文化が発達していると聞いたインドへ。産地の情報もなく、勘と現地の人とのコミュニケーションを頼りに約2カ月見て回った。それから頻繁に通うようになり、特色ある生地や物作りをまとめて84年に著書「インド砂漠の民と美」を出版した。

 インドの布は、「ヒンズー教の思想と一致し、巡回するリサイクルの文化」だと語る。「種をまいて綿花を育て、糸を作り服にする。古くなればパッチワークして、布団わたにも利用して大事にしていました。ボロなスカートにも美しさがある。表面的なデザインとは別物の、柔らかな温かさが存在します」。ただ、90年代に経済改革が進められて以降、手仕事の勢いはなくなり、「自分が見てきたことの多くは歴史になってしまった」という。

 収蔵する布は時代を語るものであり、テキスタイルの原点に気付く資料でもある。岩立理事長は集めた布を分解して再現も試みている。「一見難しいようでも、人間が手で作ったものは必ず自分でも同じようにできます。二重織りでも三重織りでも、使った糸の数だけ層になっていて、必要な色を引き上げる、繰り返しです。勉強すれば、やってやれないことはないですよ」

■データ■
住所=東京都目黒区自由が丘1の25の13岩立ビル3階
電話=03・3718・2461
開館時間=企画展の会期中の木・金・土曜日10~17時
入館料=300円



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