ジョルジオ・アルマーニさんが亡くなった。20世紀を代表するデザイナーだった。功績を若い世代のデザイナーやジャーナリストと話すと、意外とリアルに感じている人が少ない。
80年代に、世の中のスーツが全て「アルマーニ」のような服になった。肩でホールドしてしなやかにドレープを描くテーラーリングは、それまでの鎧(よろい)のような構築的なスーツとは全く違うもの。東京・新橋界隈(かいわい)の居酒屋で気勢を上げるサラリーマンまでもがアルマーニ風になった。それはすごいことである。
それをリアルに経験していない世代にはぜひ、映画『アメリカン・ジゴロ』を見てほしい。アルマーニを着てメルセデスベンツでアメリカ西海岸をドライブする主人公。バックに流れるのはブロンディのヒット曲「コール・ミー」。狂乱の80年代の幕開けとなる映画だ。この映画で、それまでファッション関係者だけの楽しみだったアルマーニが一気にメジャーに躍り出た。
当時スーツを生産していた伊ヴェスティメンタは、それ以外にもファクトリーブランド「ヒルトン・タイム」を生産していた。いわゆるアルマーニ風が得意な工場。こうした工場の存在も世界中のスーツが変わった背景にある。自分のブランドを売るだけではなく、メイド・イン・イタリーをメジャーに引き上げた。アルマーニさんの功績は計り知れない。