《めてみみ》失われた30年

2025/09/08 06:24 更新NEW!


 25年度の最低賃金が改定され、47都道府県すべてで時給1000円を上回ることになった。30年ほど前、初めて経験したアルバイトは確か時給650円だった。高校生だったあの頃の自分からすると、最低時給1000円超えは夢のようだ。

 それでも「失われた30年」を取り戻すにはまだまだ遠い。物価高の影響を引いた実質賃金は98年を100として22年と比較すると米国が約125、フランスが約120なのに対し日本は98とマイナスだ(河野龍太郎『日本経済の死角』)。物価高が進む現在では時給1000円といっても暮らしに余裕ができるわけではない。

 少し前、オーストラリアから来ている留学生と話す機会があった。アルバイトをしているかと聞くと、「安すぎて働く気がしない。日本の皆さんが気の毒だ」と同情された。何でも学生バイトは日本円換算で時給3000円ぐらい、休日など割り増しがある日は4000円というから働く気がしないのもうなずける。

 最賃引き上げを巡っては、岩手県の審議会で使用者側が全員退席するなど、一部の企業からは反発もあった。経営基盤のぜい弱な小規模事業者にとって、最賃引き上げはコスト増に直結する。国内繊維業でも同様の悩みがあるだろう。企業も働く人も持続可能でハッピーな答えはないのだろうか。留学生の同情に、失われた時の長さを思う。



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