丸竹夷二押御池、姉三六角蛸錦(まるたけえびすにおしおいけ、あねさんろっかくたこにしき)。京都の東西に延びる通りを覚えるための、わらべ歌である。「烏丸御池下ル」など、昔ながらの住所表現が残る京都。ふと道に迷った時、竹屋町の次は夷川通りだな、と重宝する歌だ。
記者が入社したのは90年代初め。最初は綿紡績の担当だった。既に輸入品の圧迫を受けていたが、業界に占める地位はまだ高かった。主要企業を覚えるため、先輩記者から教わったフレーズを思い出す。東・鐘・ユニ、日清・日東、倉・敷・台(大)に近江(オーミ)富士というものだ。
〇大紡績などと言われた時代も今や昔。鐘紡の名は消え、ユニチカも繊維事業からの撤退を決めた。この1年を見ても、他の紡績企業の縮小・再編がさらに続く。紡績の名は残っていても、非繊維事業の比率が圧倒的になったところも多い。
為替が円安に振れても、人手不足をはじめ国内生産の現状は厳しい。そうした中でも、縫製、染色や織布・ニッターなど、一部の中小企業が国産の自社ブランドを文字通り懸命に育てようとしている。とはいえ、根本となる糸が国内に無いと、メイド・イン・ジャパンの訴求力は弱まる。兵庫県の播州織産地の玉木新雌のように、紡績から手掛けるような企業はまた出てくるだろうか。新しい素材メーカーを覚えるような数え歌も出来れば良いのだが。