すれ違う人の強い視線を感じる。頂き物の企業やブランドのロゴ入りマスクを着けている時に。素顔ならあり得ないアピールをしながら歩いているのだから目を引いて当然だ。米国で犠牲となった7人の黒人の名前を書いたマスクで試合会場に現れたプロテニスプレーヤー大坂なおみさんの言動の素晴らしさを、マスクの裏で思い返す。
岩波文庫の『アメリカの黒人演説集』には1829年から順に2005年のバラク・オバマ元大統領まで、21のスピーチが載っている。解放と人権を求め命を懸けて闘ってきた黒人と米国社会の歴史がある。大坂選手の黒いマスクは、そこと確かにつながっている。
ただ少なくとも1800年代の黒人の人権が語られる時、女性が含まれていないのにも時代の流れを感じる。女性の選挙権の獲得をはじめとして進歩を続けてきたが、社会にはいまだに差別や格差が残る。
明日11月3日は米大統領選挙が行われる。黒人差別抗議運動はさらに広がっているし、選挙の結果は米中関係や日本の経済・外交にも影響する。一人の市民としては他国を論評するだけでなく、日本を覆う問題に目を向けるべきとお叱りを受けそうだ。沈黙していたら勝ち取れないどころか、今ある自由も失ってしまう。闘い続けている人々や社会に学びながら、ファッションビジネスを考えたい。