食事中、箸をぞんざいに置く後輩には「箸置きを使え」と注意するようにしている。日ごろの所作ができていないと、いつか改まった席で恥をかくことになるからだ。
何も知らない若造だったころ、泊まった旅館で食事を運んできた仲居さんに作法をたしなめられたことがある。ほかのことは忘れてしまったが、箸置きを使うように言われたことだけは今でも覚えている。それから気にかけるようになり、おかげで、少なくとも箸置きで恥をかくことはなくなった。無作法な若輩者を、行儀にうるさい親戚のおばさんのように注意してくれた仲居さんに、感謝している。
客の間違いをどこまで、どうやって正すのか。店によっては客の気分を害したくないからと、見ぬふりをすることもあるが、直すことで将来、客のためになり、なおかつ客が聞く耳を持つのなら、間違いを指摘して欲しいと思う。
まもなく新年度が始まり、多くの企業が新しい人材を迎える。新社会人にとって企業社会は、それまでのルールが通用しない、まるで見知らぬ世界。正しく判断して正しく行動しているつもりでも、間違っていることはよくある。直属の上司、先輩でなくても、親戚のおじさん、おばさんのように「それはおかしいよ」と言ってあげることが新人の将来のためになる。お客様扱いは決してためにならない。