《めてみみ》『大家さんと僕』

2019/10/02 06:24 更新


 お笑い芸人、矢部太郎さんの人気漫画が『大家さんと僕』。新潮社から一昨年に刊行され、今夏には続編『大家さんと僕・これから』が出た。シリーズ累計で100万部を超えるミリオンセラーとなっている。

 東京・新宿にある一軒家の2階に部屋を借りる矢部氏と、1階の大家さんの交流をもとにした漫画。顔を合わせるたび、大家さんは「ごきげんよう」とあいさつする上品な高齢女性だ。第2次世界大戦前後の昔話などを多く聞かされ、初めは時代感覚の違いに驚く矢部氏だが、日を重ねるうちに次第に大家さんの魅力にひかれていく。

 決して上手な絵ではない。ストーリーも淡々とした日常をつづったもので、驚くような出来事も起こらない。それでも、矢部氏の飾らない人柄と併せ、読み進めるうちに心がほのぼのと温かくなってくる。ネットの書評などを見ても、「癒やされた」との声が多い。

 何度も出てくるのが、2人で伊勢丹新宿本店に買い物に行くシーンだ。大家さんは昔から伊勢丹一筋。家電も含めて他で絶対に買わない。その分、店の隅々まで知り尽くし、店員さんとも顔なじみだ。IT化、キャッシュレス化と、社会は日々複雑化する一方。半面で、昔ながらの対話や心のぬくもり、アナログ的な道具や手法も見直されるはず。これも見過ごせない大きなキーワードだ。



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