「せんべろ」という言葉をご存じだろうか。「千円も出せばべろべろに酔える」くらい安い飲み屋のことだ。作家の中島らもさんが使い出した表現で、その手の店ばかり紹介する本も出している。飲み代を安く済ませたい時、自分もよく行く。
たいていはガード下とか下町の大衆酒場で、席に陣取っているのは年季の入った酒飲みばかり。なおかつ店が地域のコミュニティー的な役割を兼ねていることも往々にしてある。一見客には敷居が高く、以前は若い客を見かけることもなかった。
それが最近は様相が変わり、店に20代とおぼしき客が増えた。先日、混みあう時間帯に、相席になった若い客にどうやって店を知ったか聞くと、「せんべろ」で検索して店を探して来たという。
かつては、仕事帰りに先輩や上司に紹介してもらい、その後1人で通うようになって、なじみの顔になるという流れが主流だったが、今はネットを使って、そういう、まどろっこしいプロセスはすっ飛ばせるようだ。
自力で見つけ、たどり着いた分、彼らは、常連のいかついおじさんたちが醸し出す独特の雰囲気にも臆することなく、むしろそれを楽しんで時間を過ごしている。安く飲めてうまい肴(さかな)があって居心地も良い。シンプルだが明確な価値をちゃんと守り続けていれば、時代の変遷を超えて生き残る店はある。