メンズのビジネススタイルの常識が変わりつつある。05年に環境省が提唱した夏の軽装「クールビズ」は完全に定着し、オフィススタイルの多様化、カジュアル化が加速した。ここ数年で消費者の意識も大きく変化し、従来のテーラードスーツの販売数量が減少する一方、若いビジネスマンを中心に高機能な合繊を使ったカジュアル感のあるセットアップが人気だ。
スーツを主力としてきた百貨店向けブランドや紳士服専門店だけでなく、オーダーメイドスーツの選択肢としても高機能なセットアップを拡充する業態が増えている。
(大竹清臣)
想定以上のカジュアル化
紳士スーツ市場全般も転換期を迎えている。数年前からの団塊世代の本格的なリタイヤをはじめ、少子高齢化によるスーツ需要の減少は想定されていたものの、クールビズの浸透も追い討ちをかけた。スーツの販売数量は800万着を切り、10年前との比較でも7割弱まで減少したと言われる。さらに、ここ数年のオーダースーツブームも既製スーツにとっては逆風になっている。
紳士服専門店では高機能を売りにしたセットアップ企画を強化している。
青山商事の「ザ・スーツカンパニー」では今春夏からサイクルウェアファッションブランド「ナリフリ」と共同開発した自転車通勤のビジネスマン向けスーツの販売を開始した。スーツには自転車の乗車時に求められる伸縮性、通気性、防しわ性に優れた機能性を備える。AOKIの「オリヒカ」でも、ビジネスにもカジュアルにも着用可能な「ザ・サードスーツ」で出張などに適したトラベル仕様の企画を出した。店舗限定でラグラン袖のジャケットも販売する。
リラックスな商品に支持
百貨店向けブランドの今春夏企画でも、テーラードスーツにはインポート素材を使うなど上質化を進める一方、ビジカジスタイル提案として高機能なセットアップが目立つ。ビジネスウェア中心のブランドだけでなく、団塊ジュニア層を対象にしたカジュアルウェアのブランドでもセットアップの提案が増えている。求められる機能として、ストレッチをはじめ、軽量、防しわ、撥水(はっすい)、イージーケア性など多岐にわたる。以前はジャージーを使ってもカジュアルになり過ぎない〝きちんと感〟も求められていたが、ITやクリエイター系の職業などにはリラックス感のある方が好まれる。
オーダースーツ業態でも多様なビジネススタイルに対応し、ウールを使ったテーラードタイプだけでなく高機能な合繊を使ったセットアップもメニューに加え出した。オンワードパーソナルスタイルの「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」は今春から次世代向け高機能セットアップライン「モダンテーラード」をスタートした。新ラインはシャープで上質感があり出張時にも快適なコンフォータブルセットアップ「トラベラー」とオンオフ兼用で清涼感のあるスポーティーセットアップ「アクティブ」の2タイプを揃える。単品でも着回しが可能だ。
強まる競合に危機感も
消費者は一度、楽な方に流れると元に戻るのは難しい。クールビズスタイルも当たり前になった今、リュック通勤と同様に、機能性に優れ快適なセットアップスタイルの支持は高まるばかり。ここにビジネスチャンスを見出す企業は多く、競争も激しくなりそうだ。大手カジュアル専門店がストレッチ性の高いビジネス向けのセットアップを販売し始め、「それで十分」という消費者も増えている。既存企業のシェアも奪われかねない。
(繊研新聞本紙19年5月27日付)