《ソーシャルでいこう》獣皮活用促進へ事業化 「マタギプロジェクト」とレザー・サーカスが連携 中標津のエゾシカをモデルケースに
シカやイノシシなど獣害対策で廃棄されていた皮を、有効な資源として活用しようという動きが目立ってきた。野生動物による農林業への被害が年々深刻になるなか、獣皮活用促進を支援する「マタギプロジェクト」(炭谷茂実行委員長)とレザー・サーカス(山口明宏代表)は、今夏から北海道中標津町をモデルケースとしてエゾシカの皮活用の事業化に着手した。今後、趣旨に賛同した協力企業とともに、獣革のブランディング、商品開発を進める。
(大竹清臣)
マタギプロジェクトは支援産地280カ所、年間3000枚のなめし加工実績がある。だが、全国の獣皮排出数は100万枚超(17年)と見込まれるため、革として有効活用されているのは0.3%に過ぎないのが実態という。連携するレザー・サーカスは獣皮をなめした革を製品化・ブランド化し、産地と都市の消費者をつなぐ役割だ。
街のアピールも
今回、モデルケースとなる中標津はエゾシカによる畑作や林業、酪農用の牧草への被害が大きいため、自治体が補助金を出し、猟友会が駆除している。17年度の有害駆除実績は猟師の高齢化もあり、536頭だったが、例年は700~800頭を駆除する。しかし、革までの活用は進まなかった。西村穣町長は「革の活用は街のアピールにもつながり、自治体としても協力したい」と話す。
地元でエゾシカを使ったペットフードを製造・販売するIN-U(インユー)の菅美子社長は「ペットフードと食肉に活用できても60%は捨てることになるのでもったいない」と皮の活用に意欲的だ。菅社長の夫で猟師の佐々木淳氏は「中標津のエゾシカは本州の山岳部に生息するニホンジカよりも餌が豊富で平野部で育つため、大型で角が大きく傷が少ないので革製品に適している」と強調する。狩猟時や食肉処理時の傷を最小限に抑えるように努めている点も優位性がある。

新たな商流生む
なめした革を産地に返し活用してもらうだけでは使い切ることができないため、モデル産地に集中・集約した商品開発、作り手と使い手を結び付ける新たな商流を生み出す必要があった。初の試みとして、ブランドやメーカーとのコミュニケーション促進を皮革卸のフジトウ商事(東京)に担ってもらう。サンプル帳やパンフレットの作成、産地視察ツアー、素材展示会への出品なども検討中。
今月、東京で行うマタギ展(30、31日が2K540催事エリア、9月1、2日がモンベル御徒町店4階サロン)では、全国の産地や関連商品とともに、中標津のエゾシカの革を使った製品も紹介し、セミナーやシンポジウムも開催する予定。その後、秋には中標津空港のスペースを活用したエゾシカ革製品の展示も計画する。
これからの時代は獣害対策のエゾシカを活用した革製品というだけでなく、「猟師の顔まで見える革」としてブランディングを強め、エシカル(倫理的)意識の高い消費者に向けた販路拡大も重要になってくるだろう。

(繊研新聞本紙8月7日付けから)