マーク・ジェイコブスは22年秋のコレクションを、ニューヨーク市立図書館を舞台にランウェー形式で見せた。Gジャン、ジーンズ、チャンキーセーターといったスポーティーなアイテムを、ドラマチックなプロポーションの変化とレイヤードで、まったく違うテーストに作りかえた。
超厚底の編み上げ靴、パンク調に刈り上げたヘア、すっぽり頭を覆う頭巾が、反逆的な気分をにじませる。明るいブルー、パープル、グリーン、ピンクはポップなムードを加えた。
Gジャンとジーンズは、通常前にあるデザインディテールを後ろにもってくる。スカートの後ろ中心には、お尻が見えそうなくらいの深いスリットが入っている。特大サイズのチャンキーセーターは、巻き付けたりねじったりしてさらにボリュームと丸みをプラス。フォイル、ラバー、ビニールといった光沢のある素材も、カジュアルアイテムのドレスアップに一役買う。
各席に置かれたマークからのメッセージは「チョイス」(選択)で始まり、「真実を消え失せさせないために芸術が存在する」というニーチェからの引用で締めくくられた。
ショーの3日前、米連邦最高裁は人工中絶の合憲性を認めた「ロー対ウェイド判決」を半世紀ぶりに覆した。今後は同性婚、体外受精、避妊も禁止される可能性が取りざたされている。そうした最中に行われたショーだったことから、「選択の権利」を明確に主張したのだろう。
さらに今回、デザイナーをはじめ、ニットウェアやシューズ、バッグ、バッグの開発、生産、広報、メイクアップに至るまで、関わった個人名がずらりと書かれた紙も配られた。コレクションづくりに関わった一人ひとりに敬意を表する、民主的な手法をとったといえるだろう。
(ニューヨーク=杉本佳子通信員、写真はブランド提供)