ここ数年、ヨーロッパにおける日本酒の話題は尽きることがない。2019年2月に日本とEU間で経済連携協定(EPA)が結ばれ、日本酒を含む農産品の関税が撤廃されたことも大きく影響していることだろう。パリで日本人が立ち上げた酒メーカー「WAKAZE」や日本酒コンクール「Kura Mater」が開催されていることは知っていたが、ベルリンにおいても、世界的テクノDJのリッチー・ホウティンがプロデュースする「SAKE36」を筆頭に、これまでなかったスタイリッシュで独自のこわだりを持つ酒バーがオープンし、ベルリン発の日本酒メーカー「Go-Sake」も勢力的にマーケットを広げている。
日本には世界に誇る素晴らしい酒蔵が多数存在するが、これまではヨーロッパに進出している酒蔵は少なく、お決まりの銘柄を見かけることが多かった。しかし、最近では希少価値の高い銘柄やヨーロッパで初展開される銘柄や新作が次々と輸入されるようになり、クオリティーを上げながら日本酒市場を広げていることに非常に注目している。
そんな中、10月1日~7日の1週間に渡り、Sake Embassy Germany主催による『SAKE WEEK』が開催された。同イベントはヨーロッパ初となる日本酒だけをテーマとしたイベントとして、ベルリンのベルリン日独センター、日本大使館、レストラン、バーなどの25ヶ所を会場にテイスティング、ワークショップ、期間中だけの限定ペアリング、オンラインイベント、日本酒の販売などが行われた。前述した「SAKE36」や「Go-Sake」もパートナー参加している。Sake Embassy Germanyとは日本酒を専門としたプラットフォームとして、ドイツで日本酒や日本の酒文化を広げるために様々なプロジェクトやイベントを開催している非営利団体である。
Sake Embassy Germany代表のAlexander van Hessen氏(以下、アレクサンダー氏)。「Berlin Food Week」のファウンダーでもあり、食とフェスにおけるスペシャリストといえる存在。
酒ソムリエの資格を持つ友人からアレクサンダー氏を紹介してもらった経緯から、10月1日にベルリン日独センターで開催されたキックオフイベントに招待してもらった。同日は「World Sake Day(世界日本酒の日)」にも制定されており、ベルリンだけに限らず、世界各地で日本酒に関連する様々なイベントが開催された日でもある。10月は新米の収穫が始まり、全国の酒蔵が日本酒を造り始める時期であることが由来となっているとのこと。
同イベントでは、ベルリン日独センターのホールを会場に関係者を含む約100名が来場し、主催関係者による挨拶、協賛メーカー提供によるテイスティング、ゲストアーティストによるライブパフォーマンスなど、多数のプログラムが実施された。日本では恒例のお祝い行事となっている鏡開きにて乾杯の音頭がとられ、こういった日本の伝統行事を目にするのは本当に久しぶりで、地元のお正月の風景を思い出した。
昨年ベルリン日独センターの事務局長に就任したユリア・ミュンヒ氏の挨拶。
ウェルカムドリンクとしてカクテルを提供していたベルリンのクラフトリキュール”Home”
ケータリングには、ラーメンのスタートアップ「TADA Ramen」の坦々ラーメンとヴィーガン味噌ラーメンが振る舞われた。実店舗ではなく、自宅で食べれる”ラーメンキット”を開発したメーカーであり、オンラインから販売をスタート。将来的にドイツのスーパーマーケットで売られるようになることを目標にしているとのこと。ベルリンにおけるラーメン屋のオープンラッシュは一旦落ち着きを見せているが、また新たなスタイルで市場参入を目指す人たちが出てきた。スナック感覚のインスタントラーメンではなく、専門店のクオリティーが自宅で味わえるというアイデアはラーメン好きにとっては非常に嬉しいことだ。
ドイツ、スイス、イギリスに拠点を置く、ヨーロッパにおけるプレミアムな日本酒を取り扱うリーディングカンパニー「UENO GOURMET」
日本でも大人気の獺祭からバナナの風味のするレアな日本酒をテイスティングさせてもらった。酒イベントに招待してもらいながら、実は日本酒は嗜む程度しか飲めず、味にも詳しくない。しかし、これまでにも日本酒関連の仕事に携わる機会があり、ヨーロッパにおける日本の伝統的な食文化の広がりに非常に興味を持つようになった。同イベントのように、専門家からプロフェッショナルな話を聞ける機会も貴重であり、ファッションや音楽関係者との関わりが多い普段の活動からはなかなか知り合えない人たちと知り合えたことも嬉しかった。
ベルリンで琉球舞踊のアーティストとして活動している洌鎌利好さんのパフォーマンス
ベルリン拠点のユニットMUJAYによるライブパフォーマンス
友人のアーティストTakayuki KuritaもDJとして参加。
ベルリン日独センターに訪れたのはこの日が初めてだったが「SAKE Week」以外にも日本とドイツを繋ぐ様々なイベントや活動が行われているとスタッフの方から教えてもらった。即座に自分も何かやりたい!と思い、お酒を絡めるなら日本のスナックをイメージしたイベントがやりたい!とホロ酔いの力も借りて熱く語ってしまった。ベルリン在住のアーティストとタッグを組んでカルチャーイベントを開催するのもおもしろそうだし、夢は膨らむばかりである。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。