東京・自由が丘駅近くの自由が丘ひかり街は、70年以上の歴史を持つアーケード街だ。昭和のレトロな雰囲気や人情味を色濃く残す同地の名物スポットだが、近年はコロナ禍や近隣の再開発など時代の波にもまれてきた。活路を見いだしたのは、空床を活用した期間限定店やイベントの誘致。これまで出店が少なかった業態や地域に根差した老舗と協力し、新たな風を呼び込んでいる。
(高塩夏彦)
ヤミ市から街の顔に
ひかり街のルーツは、戦後間もない頃焼け野原にできたヤミ市だ。75年ほど前に市場を運営する協同組合が、正式に建物を作ったことで現在の形になった。当時は飲食、食品、雑貨などの様々な専門店が並び、周辺地域からも客が集まる活気にあふれた市場だった。

80年代から商店主の代替わりが始まり、テナント貸しが増えてきた。近隣にスーパーなどができたことで生鮮品の扱いが減り、一時はブティックが増えるなどの動きはあったが、入居が絶えることはなかっという。
一方で、自由が丘の街がファッション、雑貨、スイーツと時代に合わせて〝売り〟を変化させる中、ひかり街もリブランディングの必要を迫られていた。さらに、コロナ禍が追い打ちをかけた。空床が増え、市場には寂しげな雰囲気が漂った。何とかしたいと考え、期間限定店を招くことでにぎわいを創出する構想を立てた。
地域内外から出店
22年3月、期間限定店の出店支援プラットフォーム「ショップカウンター」を提供するカウンターワークス(東京)と協力し、空きテナントの期間限定貸しを始めた。当初はネットスーパーのプロモーションなどが多かったが、徐々に事業者の幅が広がり始めた。パーソナルカラー診断やユーチューバーのイベントなど、若年層向けの企画も増えた。
「シニア層のみに向けた商店街のイメージだったのが、期間限定店のおかげで若い人の姿も増えている」(仙波剛自由が丘ひかり街協同組合専務理事)。コロナ下以前からあったリブランディングを進めたいという課題にも、一役買い始めた。

出店者は地域の外の企業だけではない。自由が丘駅の正面口近くに80年ほど前から店を構える紳士服専門店のイケダは、26年夏までの再開発で店舗を休業中だ。主な客層は60代の地元客。店主の池田潮美さんは「自由が丘から離れたら忘れられてしまう。ここは重要な顧客接点」とし、月に一度1週間の期間限定店を出している。

ひかり街は生活動線の役割もあり、通行客が多く新規客の開拓にもつながっている。主力のジャケットなどトラッド系アイテム以外に、カジュアルなアイテムを増やすなどして反応を見て、店舗再開後の品揃えに生かしたいという。