21年春夏パリ・コレクションに合わせるかのように、いくつかのブランドがオフスケジュールで新作を披露した。それぞれのブランドの持つオリジンを背景にしたコレクションが、デジタル配信された。
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ジル・サンダーは、光と影のステージで上質で凛(りん)とした気分を描いた。白、黒、ベージュ、ブラウン、ワントーンの縦長のシルエットの中にゴールドやビジューのきらめきがコントラストとなる。サイドに細かなプリーツを寄せたシャツドレスやコート、ケープのように柔らかく肩を包み込むようにねじったトップの布の造形。シンプルな中に細かなテクニックが散りばめられる。
クロシェの花柄ドレスのレイヤード、コサージュをつなげたネックレス、手仕事を生かした繊細な装飾がシンプルなドレスを彩る。淡く透ける素材はチュニックやオーバートラウザーにして、透け感を重ねる。パリっとしたコットン、レザーのマットな質感、淡く透ける素材、いずれもが上質なクオリティーを演出する。パンツスーツは端正なたたずまいを見せ、イエローコートが生地の張りを生かして流れるようにフレアーなフォルムを生み出す。
「端正さ、前向きさ、輝き。今シーズンは、より繊細なニュアンスを取り入れた、機転の利く便利なワードローブをデザインした」とルーシー&ルークメイヤー。シンプルな中に閉じ込めた美しさは、ひたむきな物作りへの精神をたたえているかのようだ。
(小笠原拓郎)
ステラ・マッカートニーは、18世紀に建てられた英ノーフォークの邸宅ホートンホールの庭園を舞台に、初のデジタルショーを行った。披露したのは21年サマーコレクション。毎シーズン会場に選ぶパリのオペラ座から、屋外に飛び出したことで解放的で自由なムードが強調された。広々とした庭は同時に、人工的なアートスペースでもある。石を敷き詰めた大きなサークルの周りや、直線に並ぶ木々の間を、モデルたちが軽やかに闊歩(かっぽ)する。服のデザインも活動的。サファリジャケットにバナナパンツやサイクリングショーツ、ボディーラインに沿うニットのミニドレスは、跳んだり走ったりする躍動的な体にフィットする。BMXの要素を取り入れたディテールをリブやシームに取り入れる。一方で、丸みを帯びた袖やパンツのフォルムはクラシカルな女性らしさもあり彫刻的。これらをさらっとミニマルにミックスする。
ロックダウン期間中、マッカートニーは「私たちにとって本当に重要なことは何か」というテーマを軸に考えを深め、新たにブランドマニフェスト「AtoZ」を発表した。新作では再利用生地などを利用し、65%をサステイナブル(持続可能)な生地で構成した。
(青木規子)
=写真はブランド提供