近鉄百貨店草津店が進める〝地域共創型〟 デイリーニーズ×地元再発見で集客力

2020/12/14 06:26 更新


近鉄百貨店草津店

 「地域連携」を掲げる百貨店が増えている。地域客の支持、地域経済の発展なくして百貨店の活性化は実現できない、との認識が高まっているためだ。近鉄百貨店も「地域共創型百貨店」の確立を目指して各支店の活性化に取り組んでいる。草津店はその先行事例で、地元産の食を集積した編集売り場「近江路」や地域共創をうたう東急ハンズの「プラグスマーケット」の1号店を開設し、滋賀県と産業振興などに関する協定を締結するなど、地域とのつながりを強めている。10月28日から11月10日に開いた「全館まるごと滋賀フェア」は、前半1週間(10月28日~11月3日)の全館取扱高は前年同期間比約8%増、入店客数約3%増と好調。18年春から取り組んできた改装と地域共創の取り組みで集客力を高めている。

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滋賀の〝衣食住遊知〟

 20年2月に続いて2回目となる滋賀フェアは、催事場で実施している百貨店の一般的な物産展と異なり、タイトル通りの「全館まるごと」のイベントだ。グランドフロア2階入り口にあるプラグスマーケット〝伝え場〟のプラグスシガコレクション(シガコレ、売り場面積約120平方メートル)では、滋賀県が選ぶ「ココクールマザーレイク・セレクション」商品の販売や各種ワークショップ、滋賀県伝統的工芸品展と高級木製数珠などの実演販売など複数イベントを同時開催した。その他、県観光振興局による多賀地域などをリアルタイムで巡るオンライントリップ体験も2階で実施した。

ココクールマザーレイク・セレクション商品の販売や滋賀県伝統的工芸品展など多彩な内容で実施したシガコレの滋賀フェア

 1階食料品では、近江路とは別にふなずしなどの滋賀ミニ物産展を、3階では通常はECのみで販売している「シナテル」の高島帆布バッグなどの特別販売会、4階の子供の遊び場びわもくひろばでは、高島ちぢみなど滋賀の素材を使った親子向けワークショップ、5階レストラン街の各店は地ビールフェアを実施した。このほか、テナントである地元のセレクト店ボーンフリー(2階)が「NANGA」(ナンガ)や「滋賀ダウン」の特別販売を、ツタヤブックストア(4階)が地元ゲームの彦根カロム講習会を実施するなど、滋賀にまつわる〝衣食住遊知〟を幅広く提案した。

高島帆布の特別販売会(3階)
予想以上の先行予約があった特別販売。近鉄グループのKIPSカード会員の利用が3割台と徐々に増えている「ボーンフリー」

取扱高大きく伸ばす

 シガコレは、イベント前半1週間の取扱高が予算比30%増、滋賀ミニ物産展も43%増と好調だ。10月の全館取扱高も、前年の増税の落ち込みがあるものの前年同月比13.2%増(速報値)と伸ばしている。

 同店は「デイリーユースな『百貨店×専門店』」を目指して、18年春から段階的改装に取り組んできた。18年4月に1階食料品に「成城石井」をFC契約で導入、19年3月に近江路(1階、約40平方メートル)を開設して、足元商圏客の来店頻度向上を狙いに食品フロアの魅力化を進めた。19年秋には4階にFC契約の「ボディーズ」や「ツタヤブックストア」ほか地元客の利便性の向上を狙いにしたサービス業種などを導入している。

シガコレの一角で実施した木珠の実演

 20年2月21日に、東急ハンズMDゾーンとハンズと連動するテナントを配した話し場(テナント)と伝え場で構成する計1300平方メートルのプラグスマーケットやボーンフリーなどを新規導入して、全館改装オープンした。同日には、滋賀県と協定を締結し、1回目の全館まるごと滋賀フェアも開催。2月の入店客数は前年同月比14.2%増、全館取扱高は0.8%増となった。

プラグスマーケットの東急ハンズMDゾーン

 3月以降は、新型コロナウイルス感染拡大や食品以外の臨時休業で取扱高の前年割れが続いたが、全館営業再開後の6~8月累計の取扱高は1.1%増、駆け込み需要の反動のあった9月は2.5%減だが、10月は13.2%増と増収基調だ。成城石井は導入以来、売り上げを伸ばしており、全館営業再開後も「毎月2ケタ増」。プラグスマーケットも増収要因だ。初年度予算を上回った近江路も、県との協定締結後は県下の13市6町の産品を月替わりで提案しており、2年目の20年3~8月が前年比4.7%増、9~10月は20%強とさらに伸ばしている。シガコレは「滋賀のいいもの、滋賀にいいもの」をコンセプトにした常設の催事場で「滋賀中の作家、事業者を回って」、1~2週間単位の期間限定店を継続している。改装効果とともに、湖北、湖南、湖東、湖西と広大な県下のモノ・コトが1カ所で楽しめる魅力が集客と売り上げに結びついている。

シガコレでミサンガ作りのワークショップなどを実施した湖東繊維工業協同組合の副理事長で、ファブリカ村村長の北川陽子さん。協同組合としての出展も検討している

 8月末に西武大津店が閉店し、同店は県下唯一の百貨店となった。県側の期待は高く、産業・観光振興の情報発信拠点としての位置づけがさらに高まりそうだ。同店は、地域ニーズの補完を狙いに金融サービスの導入も計画している。商業だけではない「タウンセンター」化により、施設活性化と地域振興を担う地域共創型百貨店の確立を進める。

2階アカリスポットで実施したオンライントリップ体験

■近鉄百貨店草津店 JR草津駅前にあり、店舗面積は1~5階の5層で2万3000平方メートル。19年度の取扱高は105億7100万円

◇発信・発見の場に積極活用

 辻良介滋賀県観光振興局観光推進室室長


 19年12月のあべのハルカス近鉄本店での初の滋賀フェアが連携のきっかけです。地域共創型の店コンセプトも合致し、物産・観光振興を柱とする産業協定を締結しました。人口が増えている湖南エリアの交通の要所・草津にある県内唯一の百貨店であり、協定締結以降、大変“密”に取り組ませてもらっています。地場産品の販売だけでなく、テストマーケティングや消費者の声を生で聞く機会と捉えています。滋賀フェアは観光や物産など多彩に伝えられる2週間。観光の立場で実施したリアルタイムのオンライントリップ体験は県としても初めての取り組みです。一方通行の動画ではなく参加者の興味に合わせられます。今後さまざまに活用出来ると考えています。出展者からは「販売機会が増えてありがたい」との声が届いています。私たちも滋賀の良さを伝える場として積極的に活用していきたい。

◇30~50代が増加

 山本勝徳近鉄百貨店草津店店長 


 滋賀県と産業振興等に関する協定の締結により、情報、ネットワーク、経営資源を相互に活用、連携して県内、地域の活性化を図っていきたいと考えています。東急ハンズの新業態であるプラグスマーケットも、地域のモノ・コト・ヒトをつなぐプラグの考え方のコラボショップです。一等地にある伝え場(シガコレ)は情報発信する催事場であり集客装置の位置づけ。滋賀県は広く特産品がたくさんがありますから、再発見や発信を強化し、滋賀フェアも半期に1回は取り組みたい。

 一連の改装効果もあり、30~50代層が着実に増えています。売上高に占める自社カード会員構成比は3分の2で、顧客データでみると30~50代は約半分の48%(19年度は43%)。非会員を含めてもそれぐらいの構成比です。これからも駅前立地を生かした地域に愛される複合的なサービス施設、タウンセンター化を進めていきます。

(繊研新聞本紙20年11月13日)

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