若手経営者に聞く ファッション業界の課題とは?

2017/06/24 06:30 更新


 繊研新聞社は3月に掲載した連載「ゲームチェンジャー U-35」のスピンオフ企画として、このほどトークイベントを開いた。登壇した35歳以下の経営者3人と来場者約30人がファッション業界についての意見を熱く交わした。

 「どこに業界の課題を感じるか」「業界の活性化とは何を意味するのか」の二つの質問に対する各経営者の見解を切り取る。


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【登壇者紹介】


武田悠太ログズ社長

 1984年東京生まれ。07年にアクセンチュア入社。14年に丸太屋入社後、同業のニューカネノ(現ログズ)の買収・再生を担当、16年に同社代表取締役社長に就任。主力事業は問屋とOEM。社長就任以降、ブランドマネジメント事業とシェアオフィス事業も始めている。

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保坂忠伸スプリング・オブ・ファッション社長

 1986年山梨県生まれ。新卒で経営コンサルティング会社に入社。12年に退職後、語学留学を経て、文化服装学院とここのがっこうに入学。その後、フリーペーパーの営業や人材派遣会社に勤め、16年7月に独立。同年10月に同社設立。クリエイターが自由に作品を投稿できるSNS(交流サイト)サービスやネット上でのコミュニケーションを介して仕事を依頼できるクラウドソーシングサービスなどを提供している。

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高野聡司レディ・トゥ・ファッション社長

 1993年広島県生まれ。早稲田大学卒業。在学中に学生団体「レディ・トゥ・ファッション」を立ち上げる。16年11月に同社を設立し、社長に就任。「若者とファッション業界をつなぐ」を理念に、メディア運営のほか、今春から新たにファッションに興味のある学生とアパレル企業をマッチングさせるSNS型の求人サービスをスタートした。

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若い人が入らない 独自性の欠如 おしゃれする場がない

――ファッション業界の課題は?

提案力が弱まる

武田 若い人が業界に入ってこないことだと思います。大手企業には入社してくるかもしれませんが、OEM(相手先ブランドによる生産)が主力の中小規模の会社にはあまり入ってこない。そうすると提案力が弱まります。当社もスタート時は平均年齢が49歳くらいでしたが、今は29歳ぐらいです。少し強引にでも会社を変える必要がありました。

 ファッション業界は「かっこよければいい、おしゃれならいい」みたいな風潮がありますが、そういう考え方が今の時代は人を引きつけないと感じています。昔は服がかっこよければ異性にモテたけど、今はそうじゃない。そうなると“じゃあ服って何?”となってくる。だんだん、自分が良いと思う服を着るようになり、ファッションが趣味化していく。趣味になると好みは多種多様になっていく。こうした状況で、年長者が上から目線で“おしゃれでしょ”と提案しても、若者を引きつけることは困難だと思います。

自分らしさ表現

 保坂 独自性の欠如。それが今の業界の課題だと思っています。同質化が言われていますが、生産を海外に投げ、消費者が本当に欲しいと感じている物を産み出すことをサボってきたツケが出てきていると感じています。

 今、世の中はすごく多様化しています。個人的にファッションは多様化の代名詞みたいなものだと思っています。例えば、iPhoneを使っている人はすごくたくさんいますが、人と同じでも嫌じゃない。でも、知人・友人と服が全く一緒だとすごく嫌じゃないですか。これは服にあまり興味が無い人でも感じることだと思うんです。人間は本質的にファッションで自分らしさを表現したいのだと思います。だからこそ同質化はまずいですよね。

 高野 どんな時に服が欲しくなるかという視点から考えた時、おしゃれな服を着て出かける場所・イベントが少ないことが課題だと思っています。好例だと思うのが、昨年ストライプインターナショナルがゆかたの販売をする際に、消費者向けイベントも行ったこと。他にも、オーダーメードスーツを作っている企業が、社交場のようなイベントを開いたりしています。若者目線に立つと、場所やイベントが少ないなと感じます。


アツさ/市場創出/若者に投資

来場者と経営者が互いに質問を投げかけるなどしてトークが盛り上がった

 志のある人ほど「ファッション業界を良くしたい」という思いは強い。しかし、多様化が進んだ業界において“良い業界”とはどんな状態を指すのか。人によってその定義は千差万別だ。ここ数年の間に新たなビジネスをスタートした若手経営者が考える「業界活性化」とは何を意味するのか聞いた。

――何をもって業界活性化とするのか。

新しいことに挑戦を

武田 業界が良くなるとはどういうことか。その答えはすごく簡単で、業界で働くみんなが“ファッション業界ってアツいよね”と思えることです。ファストファッションが売れても良いし、デザイナーブランドの服が売れても良い。みんながファッション業界を良いと思えることが大事です。おそらくIT(情報技術)業界の人々は、自分たちの業界をアツいと思っているはず。私も服飾雑貨のOEM(相手先ブランドによる生産)をアツいと思っているんですけど、そんな風に考えている人は少ないですよね。

 今、多くの人が後ろ向きに物事を考えてしまっていると感じます。適正な規模でビジネスをしなければ、売り上げが悪くなるのは当然だと思います。ニーズが無くなっているのに、新しいことを始めず、売り上げを維持・拡大しようとする。それではどんどん“業界が厳しい”という感覚になっていく。みんなが新しいことに挑戦していけば、業界は活性化すると思います。

“お金の発生”が基準

保坂 業界活性化の答えは一つではないと思いますが、端的に言うならば、新しい市場を創出すること。そして、そこにお金が発生するかどうかが活性化の判断基準だと思っています。

 私はファストファッションの日本進出も業界活性化の一つだったと思っています。手頃な価格で、ある程度のファッションが手に入るようになりました。業界の多くの人は残念なことだという認識ですが、消費者に支持されているからこそ売り上げが取れているのだと思います。

高野 若い視点から何が活性化と言えるのかを考えると、業界全体が若者に投資ができるようになることだと思います。例えば、トウキョウベースは大卒初任給で約25万円を支給している。これは他のIT企業と遜色ないくらいです。このように、若手に投資できる体力が持てたり、“投資しよう”と決断できる機運に持っていくことが、活性化の一つじゃないかなと思っています。


【会場の様子】



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