《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》ポジティブに変換する力

2023/05/31 06:26 更新


 4年ほど前にこの連載で「rétela」(リテラ)を紹介しました。インドのブロックプリントの作業時に生地の下に敷く、元は廃棄されていた敷布を利用して製品を作っています。代表の大越敦子さんは、その後もユニークなアイデアを強みに事業を発展させています。

重なり合う色柄

 今年4月で8周年を迎えました。下敷き布の活用だけでなく、そのランダムな色柄を図案として再現したシリーズ「コルカタ」もあります。大越さんのラフ画を元に工房の職人さんたちは「いつもすごく良い感じ」にプリントしてくれるそう。職人のセンスを信頼し、生産の途中経過を確認して、ある程度は任せます。縫製も同様で、生地の取り都合でスカート丈が数センチ短く仕上がっても、許容範囲として受け入れます。現地の感覚と自社が目指す物作りの隙間をゆるく柔軟に受け止め、継続することで信頼関係を築いてきました。

アジュラクプリントの工房で作業をする職人と大越さん

 繰り返し使われる敷布は、製品生地から染みた色や柄が複雑に重なり、ゴワゴワした感触のものもあり、テクスチャーは一定ではありません。当初は商品が受け入れられるか不安でしたが、そこに共感の輪が広がり、お客様が商品を手にして喜んでいる姿にやりがいを感じるそう。昨年は福岡の宝島染工の倉庫兼店舗「宝島倉庫」でテキスタイルの展示販売イベントを行いました。また、東京・蔵前の文具店カキモリのオーダーノートの表紙に生地を提供するなど、地域やジャンルを超え、活動の場を広げています。

4月に開催した展示販売会
「Cirbafun(サーバファン)」でのライブイベント。ミュージシャンの衣装を提供して、生地で空間演出をしました
文具店カキモリとのコラボレーション企画。オーダーノートの表紙用に生地を提供しています

経験しながら進む

 22年から「アジュラク」シリーズをスタート。以前からリサーチしていた有名な工房に連絡すると「ぜひおいで」と返信がありました。敷布の仕入れが目的でしたが、代表のスフィヤンさんに「作業台を使ってプリントもしていいよ」と言われ、職人さん2人と一緒に作業することに。あらかじめ用意したデザイン画はなくても、工房にある版を組み合わせたり、藍や茜(あかね)、鉄の染料で染めたりと、即興で製作する想像していなかったことが実現。新しい商品の発想につながったそうです。「ルールや既成概念、常識にとらわれない方が自分に合っていて、楽しくできます」と大越さん。

アジュラクシリーズのアイテム

 自社のアトリエに併設したショップに加えて、21年から年に1度、自主企画の展示販売会を開催しています。今年はライブイベントも交えて企画。自身が魅了されたアーティストに演奏を依頼して実現したそうです。リテラの生地を生かして空間を演出し、音楽とのコラボレーションで生地の魅力を再発見しました。将来はインスタレーションもやりたいと意欲的です。

 大越さんは以前、アパレル企業や造形会社など転職を繰り返したことをネガティブに感じていた時期もありました。しかし、今は様々な職種での経験が生かされていると気づくそう。事業の成長を通じ、自分の考え方や取り組み方も更新できているようです。インドの生地に限定して、「作りすぎない規模感でリテラを長く続けていきたい」といいます。

(ベイビーアイラブユー代表取締役 小澤恵)

■おざわ・めぐみ

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事