《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》産地で作り続けるためにできること

2023/04/26 11:00 更新


3年ぶりに開いたterihaeruの新作テキスタイル展「lights」

 今月、個展を3年ぶりに開催したテキスタイルブランド「terihaeru」(テリハエル)。デザイナーの小島日和さんは、コロナ禍をきっかけに事業を見直し、21年に地元の一宮市から八王子市に拠点を移しました。「日本のテキスタイルが存続していくためのテキスタイルの形」を模索しています。

衝撃的な出会い

 小島さんは名古屋芸術大学でテキスタイルコースを専攻し、在学中に尾州でカナーレの足立聖さんに出会い、衝撃を受けました。「足立さんがションヘル織機で作った布がこの世で見たどんなものよりも可愛かった」。しかし「ションヘルの布が近い将来作れなくなる」可能性があると知り、日本の特定の地域でしか作れないものと、それを支える技術を守り、継承していきたいと思いました。それがブランドを始めた目的です。

 大学卒業と同時に足立さんに弟子入りしてションヘル織機を学びながらテリハエルを始動。BtoC(メーカー直販)事業を主軸に、オリジナルテキスタイルと小物雑貨を百貨店催事などで販売しました。消費者の認知度を高めることで、産地の需要の活路を見いだせると考えたのです。見た目のインパクトやキャッチーさを持ち味に、定期的に出店の依頼があり、実績も上げました。一方で、服飾雑貨では使う布の量は限られ、産地の需要拡大につながらないと感じていたそう。実現したいこととのギャップにモヤモヤした気持ちを心の底で感じながら活動を続けていました。

terihaeruのデザイナー小島日和さん

外で可能性広げる

 そんな中で起きたコロナ禍で事業は打撃を受けました。一宮の事務所を閉め、しばらく他の仕事に携わりました。それでもなおテキスタイルに携わりたいと過去を振り返り、「ションヘル織機で作る布は大好きだけど、透ける布やインテリアの重厚な布も大好き。私がやりたかったのは布を通して、様々な人に面白がってもらい、使ってもらうこと」と気づいたそう。

 そこから尾州産地の外に出て多くのことを吸収し、ブランドに深みを出そうと新たな方向性を見いだします。17年から主宰するテキスタイルデザイナーの合同展示会「NINOW」(ニナウ)でも、魅力的な産地や布の存在を再認識。BtoB(企業間取引)事業を主軸にして布を販売し、ションヘル織機に限定せず、全国の産地で作ることを決断。布の種類を増やしたら、ビジネスチャンスが増えると考えました。23春夏の個展では、尾州、八王子、富士吉田、高野口の産地で制作した四つの布を発表しました。インテリア用途を想定したパイルも制作し、手応えを感じたそう。業種を問わず売り先の開拓に意欲を高めています。

新作のテキスタイル「home sweet home」。ジャカードのカット作業は小島さん自らが行います
個展ではトークイベントも行い、新作の紹介や今後の事業展開などを語りました

 「最終的には、一宮に戻って自分で工場を持つことが目標」と小島さん。2年ほど、足立さんの工場で職人と一緒に仕事をして、現場の苦労や丁寧な仕事から布が出来ていることを身を持って感じ、多くの方に職人や作り手のことを知ってもらいたい思いがあります。「楽しい」「好き」という気持ちを原動力に、布と産地の魅力を自らが動き発信して伝えていきます。

(ベイビーアイラブユー代表取締役 小澤恵)

おざわ・めぐみ

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事