服飾系専門学校には、専門分野に特化した教育内容にひかれ、目的意識の高い学生が集まっている。高校から服飾や美術を専攻した人、海外からの留学生、社会人経験者など多様な学生が、知識や技術の修得、課題の制作に励んでいる。学内外のコンテストに意欲的に挑戦したり、学内イベントでまとめ役を務めたり、バイトなどで忙しい合間を縫って主体的に学び、活動の場を広げる精力的な学生も多い。
自身の夢の実現や可能性を広げるために頑張っていて、各校が期待をかける専門学校生の思いや学生生活の一端を紹介する。
母国の若者に可能性示し勇気を与えたい
文化服装学院 ファッション工科専門課程ファッション高度専門士4年 パラミタさん
インドネシア出身。おしゃれな祖母の影響で小さい時からファッションに興味があった。高校ではTシャツの商品化企画でグラフィックデザインを担当し、卒業後は実家の印刷会社でレイアウトの規則を学び、注文に応じたデザイン提案も行っていたが、「技術力が高い日本のファッションを勉強したくて、チャレンジ精神で留学を決めた」。
世界的に有名な文化服装学院で学びたくて18年に来日し、日本語習得のため同じ敷地内にある文化外国語専門学校に入学。19年に文化学園創立100周年記念ロゴデザインコンテストに参加し、約200人の応募作品からパラミタさんのロゴが選ばれた。人台の形の一つ目の0で洋裁学校としての始まりを、二つ目の0で将来を、1で新たな歴史を作っていく志を学園の色、スミレ色のロゴで表現した。
20年に念願の文化服装学院に入り、幅広く学べる高度専門士科を専攻。初心者なのにオンライン中心の授業で、寮で部分縫いをして午後に確認・点検のため登校したり、苦労しながら2年で裏無しや革のジャケットも作れるようになった。文化祭の係分担、学校主催の外部との協業にも積極的に参加してきた。
母国では、無理と言われて止められることが多かったが、日本では「やりたいことは何?」「何でもやってみれば」と言われ、「制約がなくなって発想が自由になり、自信を持てるようになった」。様々な人と出会い、カメラやビンテージ服など趣味や興味が広がり、「生きていることが楽しい」と実感。物語があり人の心を動かせるビンテージ服から発想を得た作品も多く、「グラフィックの知識を生かした服作りができるデザイナーになることが目標」だ。
4年生になり、卒業制作と並行し、日本での就職を目指して就活中。第一志望のストリートブランドで就業体験の募集があり、自分の作ってきた物や考えが伝わるポートフォリオを昨年末に作成。実家の印刷機で60ページの雑誌を作り、自作の服や雑貨、旅行した広島の写真、絵やポスター、100周年ロゴなどの作品を箱に入れて提出し、20人の応募者から選ばれ就業体験中だ。「自分の服と活動で母国の若者に可能性があることを示し、勇気を与えたい」と前を向く。
クリエイションも発信も積極的に
大阪文化服装学院 スーパーデザイナー学科3年 榎本麻鈴さん
「絵本よりもファッション雑誌を見る方が好きだった」と振り返るほど、幼少の頃からファッションが好き。父が仕事で使うテキスタイルの見本帳もよくめくって見ていた。「将来はファッション分野に進みたい」と小学生の時からイメージしていた。
服作りを本格的に学び始めたのは、大阪文化服装学院に入学してからだ。「学生作品のクオリティーにひかれた」のと、「スーパーデザイナー(SD)学科で学び、世界で活躍できるようなデザイナーになりたい」と考え、同校に進学した。「元々、あまり人に流されず個性的だった」が、「SD学科で互いの個性を認め合う環境に恵まれた。〝自分らしさ〟を大切にしていいんだと実感でき、毎日が充実している」と笑顔を見せる。
2年次からはデザインコンテストに挑戦。「文化服装学院ファッションコンテスト2022」では、デザイン大賞を獲得した。疫病と災厄の除去を祈る祇園祭と、カラフルな装いのおばあちゃんたちをミックスした目が覚めるようなピンクの作品で、世の中の暗いムードを明るく彩ろうと考えた。「服に意味を持たせたい」と言うように、榎本さんはまず、コンセプトやテーマをしっかりと固めてから服作りに取り組んでいる。
「インフルエンサー特別ゼミ」を受講し、SNSを活用した発信力も磨いている。受講してからフォロワーが増え、ティックトックで再生数の多い動画も投稿した。23年度は自分のブランドを立ち上げる。「ブランドと個人の両方を、動画も活用しながら並行して発信していきたい」と話す。
4年制のSD学科を卒業した後の目標は、「自分のブランドで独立するか、留学すること」だ。留学する場合は提携校であるイタリアのポリモーダ校を視野に入れている。最近は友人とファッションイベントを主催するなど、「新しいことにも積極的にチャレンジするようになった」。目標に向け、これからも可能性を広げていく。
相手に寄り添ったニットを届けたい
上田安子服飾専門学校 ファッションクリエイター学科ニットファッションデザインコース3年 田中比奈子さん
家族の影響もあって、小学生の時からファッションが好き。「好きなことを学びたい」と家政科のある高校に進学し、3年生の時にはファッションショーも行った。そのショーのウォーキングレッスンや、学校説明会参加時に「親身に相談に乗ってくれたり、先生との距離の近さを感じた」ことから、上田安子服飾専門学校に進学した。
1年次は工業用ミシンの使用をはじめ、「初めてのことがたくさん」で課題にも追われたが、根気強く頑張った。2年次からはニットファッションデザインコースを選択。入学時はオートクチュールを学ぼうと考えていたが、1年次にニットを使ったリメイク制作に携わったことをきっかけに、ニットの魅力をさらに追求したくなった。
「ニットは糸を選ぶところからオリジナル性の高い物作りを目指せる点が魅力」と田中さん。「この糸を、この編み地にすると、こんな風合いになる」というように、独自に資料を作成し、コツコツと知識の引き出しを増やしている。時間があればニット小物を制作し、学校のスタジオを借り、作った小物の撮影も行っている。ニットの中でも、特に手編みは時間や手間がかかり、「自分との勝負で忍耐力も必要。でも集中力はある方なので苦ではない」。
将来の目標は「ニット作家になること」だ。現在も友人や知人からリクエストをもらい、ニットのバッグや帽子などを制作している。「初対面の人とも楽しく会話をし、誰とでも仲良くなれる」という自身の長所を生かし、「色や素材を細かく考えながら、相手に寄り添ったニットを届けたい」と笑顔を見せる。
このほど開かれた「第151回上田学園コレクションプレタポルテ2023」では、同じコースの学生とオリジナルブランド「カウンター」で、苦手なことやコンプレックスを倒せる戦闘服を制作。田中さんは着ぐるみを題材に、様々な糸や手編みをはじめ各種の技法をバランス良く盛り込んだ服作りを見せた。
服の枠にとらわれない発想力
名古屋ファッション専門学校 テクニカルクリエーション科3年 田本彩乃さん
小学校5年生の時だった。「服飾関係に進みたい、という気持ちが急に降ってきた」と田本さん。正直、「当時、服には興味はなかった」が、自由帳に服の絵を描いたり、祖母が服飾関係の学校を卒業したりしていたことから、ファッションに近い場所にいた。高校でファッションコースを専攻後、進路を選ぶ際は1年次からCAD(コンピューターによる設計)を使えるため、名古屋ファッション専門学校に入学した。
1、2年次はスカートやシャツ、ワンピース、ジャケット、コートなど洋服の基礎を学びながら、外部コンテストに応募。自分としては「良い出来栄え」と思ったのに、なかなかデザイン画で1次選考を通過できない。前向きな性格の田本さんだが、「楽しくなかった」と当時の率直な気持ちを教えてくれた。
結果が付いてきたのが、昨年応募した装苑賞だ。テーマは「Cooperation」。サステイナブル(持続可能な)をテーマに、森林伐採につながるとされる紙と海洋汚染や、地球温暖化と関係があると言われるプラスチックのそれぞれの良さについて、ポジティブに見せたポートフォリオを披露した。これまでの経験から、見せるためのテクニックも意識した結果、1次審査を通過。2次審査も無事に通り、2月から春休み返上で約2カ月間を作品制作に費やした。制作に使った紙の長さは1体約200メートル。「悔いはない。やり切った」と、すっきりした表情を見せる。
担任の吉村ゆかり先生は「異素材使いなど服の枠を超え、面白いテーマを考えられる」点が田本さんの良さと評する。
東海地区に就職希望のアパレルメーカーがあり、現在、採用選考中。「そこに入ることしか考えていなくて、他社は受けていない」。将来は「人を輝かせられるファッションデザイナーになりたい」と田本さん。後輩には、授業の一つひとつで「自分のこだわりを出していくことが大切」とアドバイスする。
自由な発想を形に、技術の向上に力
ドレスメーカー学院 高度アパレル専門科3年 吉川桃代さん
母がウェディング関連の仕事をしていたため幼い時からドレスが好きで、イラストを描くのも好きだった。服飾デザイン科のある高校でデザイン画や縫製など洋裁を学び、さらに技術を身に着けたくて専門学校への進学を決めた。1人1台のミシンがあり、アットホームな雰囲気のドレスメーカー学院を選び、パタンナーに憧れてアパレル技術科に入った。
プロとして活躍できるように工業的な縫製やパターンの技法を厳しく指導され、正しく直角に線を引く練習や、毎朝1分の運針とゲージ付け、週1回の襟やポケットなどパーツ別の課題と並行し、アイテム別の課題制作もこなした。デザインを考える時間は楽しく、ブランド作りの勉強を深めたいと思い、高度アパレル専門科に編入した。
新しいクラスでは、1年時に学んだ基礎を応用し、自由に考える少し柔らかい衣装系の縫い方を学んだ。修了制作ではスモッキングに挑戦。宝石のカット柄のスモッキングを約2カ月かけて完成し、宝石の輝きと流行のスポーツテイストをミックスした作品3点を作った。独自性や完成度の高さが評価され、クラス内で1位に選ばれた。
3年になって初めてYKKファスニングアワードに応募し、校内で1人だけ1次審査を通過。デニム製でファスナーの上げ下げやスナップボタンで表情の変化を楽しめ、襟や肩も着脱可能な自由な発想の作品に仕上げる計画。出版社との産学連携授業での手作りロリータ服など課題も多く、今は4作品を同時に制作中。「表現したいデザインを形にする手法を先生に相談し、様々なデザインに挑戦しながらパターンと縫製の技術を高めたい。学生時代しか応募できないコンテストにも力を入れ、成果を残したい」と、意欲的だ。
「忙しくても質にこだわり、難しい技術を使って作り込み、完成度の高いリアル服を作りたい。出来上がっていく過程が見える縫製が好きなので、スタイリストと一緒に考えながら実用的な衣装を作る縫製の仕事にも興味がある」と将来の道を探している。
「演者を支える」魅力に引き込まれる
香蘭ファッションデザイン専門学校 ファッションデザイン専攻科3年 岩﨑小侑さん
デザイナーだった叔母の影響で幼いころからアートに親しんでいたため、高校は美術コースのある学校に進学した。とにかくいろんなことを学びたくて、水泳やバレーボールを習ったり、昨年までは劇団にも所属していた。演じることに憧れて劇団に入ったが、裏方として働く先輩たちとも交流する中で、「演者を支える衣装の魅力に引き込まれた」という。
香蘭では2年間、技能も含めファッションの基礎をみっちり学んだ。3年次にはファッション画コンクールで佳作を受賞するなど、着実にステップアップしている。そんな彼女も、入学当初はデザインへの苦手意識が強かった。今も作品発表では、アイデアを考えたり締め切りに追われ、夜遅くまで作業が続いたり大変な時もあるが、「スポーツで培った忍耐力が役に立っている」と笑いながら話す。
今春から在籍している3年次の専攻科では、これまでと違って自分でテーマを考え、作品制作を進めていかなければならない。同じテーマでも、その時々の気分や環境で色使いやデザインの表現は微妙に変わる。自分自身でテーマをしっかり理解し、作品に落とし込む作業は大変だ。そんな時は、とにかく頭を空っぽにし、根を詰めないよう心掛けると話す。最近は「自分の好みや、やりたい事が分かるようになってきた」という。ファッションの魅力は上達が分かりやすいこと。自身が上達していることが、自信につながっている証拠なのかもしれない。
卒業までの数カ月間は、卒展へ向けた作品制作や就職活動などで多忙な時期だが、岩﨑さんは学内ではファッションショーのモデル、学外では7月に福岡で開催される世界水泳の表彰式の介添え役にも挑戦する。かつて一歩踏み出したことで、大きく前進した経験がある。「やらずに後悔するぐらいなら、思い立ったことは進んでやることにしている」と意欲的だ。
校長推薦・ウチの逸材
ピンチの時こそチームを支える
中部ファッション専門学校 ファッション産業学科3年 二村叶(ふたむらかなう)さん
忘れがたい経験がある。2年生の時、リーダーを務めた学内のCFCファッションコンテストだ。当初は別の学生が発案者兼リーダーだったが、テーマがうまくまとまらず、さらに発案者が体調を崩して一時的に抜けることになり、チームがバラバラになりそうになった。
ピンチを前に、二村さんの負けず嫌いに火が付いた。「俺がリーダーになってチームを変えてやる」と時間が限られる中、リーダーに立候補した。その後は、復帰した発案者と綿密な打ち合わせをしてコンセプトを固め、改めてみんなに理解を促し、チームをまとめていった。「半年くらいプレッシャーで毎日、きつかった」
何とか間に合ったコンテストでは、グランプリ受賞とはならなかったが、ポートフォリオの評価はピカイチだった。
よくしゃべり、よく笑う、先生も認めるクラスのムードメーカー。就職はアパレル小売りで働く父の影響もあり、自身も小売り志望。「人にポジティブな影響を与えていきたい」と、思いは熱い。
人を引っ張り、導くまとめ役
愛知文化服装専門学校 アパレル技術専攻科3年 木下雅さん
小学生のころから、ファッション雑誌を数誌買って読むくらいファッションが大好き。先生との距離が近く、アットホームな雰囲気にひかれ、愛知文化服装専門学校に入った。
1年生でパターンやファッションビジネスの基礎を学び、2年生以降は少しずつ紳士向けのジャケットやパンツの縫製技術を身に着けていった。初のワンピース制作では縫製に苦労した。襟が突っ張らないように気を付け、ライダーズタイプのファスナー縫製にも戸惑った。それでも、すぐには聞かず、「どうすればうまくいくか、まず自分で考える」のがモットー。考える動作があるからこそ、定着もしやすい。
2年生の時には創立記念ファッションショーの実行委員になり、今年は実行委員長を務める。同級生と活発に議論しながら、後輩には問いかけ、導く――。そんなかじ取りをしていくつもりだ。稲葉美奈子先生からは、「リーダーシップを発揮できるまとめ役」と、信頼されている。
将来はSNSを通じ、「日本の特性を生かしたファッションを海外に伝えていきたい」と思いを語る。
(繊研新聞本紙23年6月30日付)