「DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で大切なのは、DよりX」と話すのは、日本オムニチャネル協会の鈴木康弘会長。企業の多くはITの実装には熱心だが、〝企業変革〟を意味するXを伴わないからデジタル化の効果も限定的だという。「足りないのはデジタル人材ではなく、X人材」とみて、協会でイベントを数多く主催し、参加者の知見の交換に役立ててもらっている。
コロナ禍に突入する20年3月に設立。小売りやITベンダー中心の組織として立ち上がった。メーカーや卸、物流、金融、物流などの企業の参加を促し、当初の計画通りに増えた。〝全ての経路〟を意味する協会名通り、商流だけでなく、物流、金流、情報流をつなげ、共創する場作りが役割と考える。そうして初めて、本来的なDXやイノベーションが可能になると説く。直近で228社の企業会員と310人の会員が参加している。
「とにかく、聞いたり、話したりする機会を増やしている」と鈴木さん。大事なのは、業界を飛び越えて学ぶこと。一つの会社で同じ教育を受けるのが有用だったのはかつての時代。異質な存在がいない会社で問いを発しても、全員同じ答えしか返ってこないし、それではイノベーションも起きようがない。雇用の流動性が高く、異業種にも当たり前のように転身する欧米と日本は異なるが、会社を辞める必要はない。異質な考えや未知の業界に触れる機会を多く提供する協会を利用すればよいという。
DXといえば、地方や中小の企業には縁遠いように感じるが、「物理的な距離はオンラインのコミュニケーションで補えるから関係ない」。中小はトップと現場の距離が近いため、大企業よりも企業変革を起こしやすいはずという。「DXは本当は難しくはないが、人材がいないから滞る」とし、協会を人材育成の場にしたい考えだ。