浅草の地で、約半世紀にわたって多くの靴職人を輩出してきた「エスペランサ靴学院」が閉校になる。そんなうわさを聞きつけて、自分が学院の運営を引き継ぎたいと申し出たのは19年の頃。未来の担い手の学びの場を守りたい、1000人を超える卒業生たちの「帰る場所」を失いたくないという一念だった。
学院長に就任し、大阪に移転という形で再スタートを切ろうとしていた頃、コロナが蔓延(まんえん)。緊急事態宣言下で「外出」が許されない中、靴業界への打撃は特に大きかった。
ようやく開校できたのは、21年4月のこと。予定していた開校からは1年ほど遅れた。再出発にあたり、物作りだけでなく、自立することを重視してビジネスコースも新設した。カリキュラムも場所も講師も、全てゼロからの再スタートだった。
日々頭を悩ませる中で支えてくれたのは、靴学院の卒業生をはじめとした靴業界の仲間たち。「学校を残してくれてありがとう」と声をかけられ、自分がやったことは、決して間違いではなかったと確信した。
「照千一隅(しょうせんいちぐう)」、いま与えられた場所で咲く。どんな境遇で、苦難にさいなまれたとしても、自分がいまできることを一心に積み重ね、靴業界を明るく照らす存在でありたいと願う。
(エスペランサ靴学院学院長 大山一哲)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。