日本各地のモノやコトを体感し、購入できる展示型カフェがオープンした。東京・渋谷の「AZLM・コネクテッド・カフェ渋谷地下街店」は、最先端技術を活用し、来店客の〝日常空間〟となることを目指している。
(武田学)
AZLMは「From A to Z,Live Marketing」の頭文字を取ったもので、あらゆる商品をライブでマーケティングできる未来型のカフェとして、7月10日に正式オープンした。全国各地の商品やサービス約300点を展示し、来客が見て、触って、試して体感できる。しぶちかの中央通りに位置し、東急百貨店のフードショーに向かい合った場所で、月間歩行者通行量は50万人が想定されるトラフィックの良い立地だ。
店にはバリスタが常駐し、コーヒーを税込み99円、ラ・マルゾッコ社の最新エスプレッソマシンを使ったオリジナルドリンクも111円という低価格で提供し、気軽に立ち寄れるカフェにした。カフェはスタンド式で、コーヒーを飲みながら、自然に商品が目に入ってくるよう展示されている。衝動買いを喚起するだけでなく、関心のある商品を記憶にとどめてもらう効果を期待できる。
出展者がリモート接客
商品は雑貨やアパレル、飲食品など多岐にわたっている。同店では〝地方創生〟をテーマに商品やサービスを揃えている。全国各地の企業、産地、クリエイターなどが月3万3000円の費用で、商品(またはサービス)を展示スペースに出品する形だ。展示スペースは1品につき15×25センチが基本で、商品説明も配する。
来客は関心のある商品について店内のパーソナルロボットやタブレットを通じて説明を受けられる。出展者と直接リモート接客を受けられるのもポイントだ。欲しい商品はその場でオンラインで購入する形で、音声注文もできる。カフェを含めて支払いはスマートフォンによるキャッシュレス決済。このため購入客は最初にアカウントの登録が必要となる。
また、NTT東日本と提携し、同社のデータ解析、AI技術基盤の提供を受ける。店内の人流や来店者の展示商品への興味関心などの店内行動データを匿名化した上で購買傾向を解析しデジタルデータ化して店舗の改善を図り、出展者へも情報還元して、商品開発や販売戦略に活用してもらう。「これまで小売業の多くは顧客履歴データにとどまっていた。なぜそれを購入したのかまでAI分析して、デジタルデータとして積み重ね、今後のあるべき商空間を模索していきたい」(中村武治社長)という。
コロナ禍でのオープン直後は上々の入店客を確保したものの、すぐに緊急事態宣言が発令され、しぶちかの通行客は大きく減った。想定ほどの来客には至っていないが、「それでもまずまずの手応え」(中村社長)と会員登録を含めて入店客の反応は順調と見ている。客は場所柄から20代を中心とする若者に集中すると見ていたが、若者だけでなく中高年が想定以上に来店している。キャッシュレス決済なので、来店するのはある程度スマホを使える層となり、店のスタッフもサポートすることでトラブルも少ない。
利便性高め日常使い促進
同社では昨年、東京・江東区住吉の住宅地にほぼ同じようなカフェを期間限定で出店し、トラフィックの少ない場所で実験し、ある程度の会員登録を確保しリピータ―がついた。このため通行量の多い場所であれば確実にリピーターを増やすことでができると見込んでおり、コロナ禍が収まっていくほど顧客を増やしていけると予測している。
10月には同社のオリジナルアプリを導入(月会費300円を予定)する。現在は決済サービスは1社だけで行っているが、クレジットカードや電子マネーなど多様な決済手段に対応できるようなるほか、アプリ会員になるとコーヒーだけでなくフードも99円で購入できるなどお得なサービスを充実させる。原価に近い価格設定で、頻繁に立ち寄ってもらうのが狙いだ。来店頻度を一層高め、会員の日常使いを促進する。「今後5G、6Gへと通信システムが進化するとコロナ終息後も売り場に出向くことは大幅に減ってくる。いかに日常空間とするかが重要になってくる」(中村社長)として、日常空間としての店を整えていく。
百貨店、SC、自治体が関心
直営店やFCなど多店舗化を計画しているが、開店後、特に反応が大きかったのは百貨店やSC、ディベロッパーだ。すでにFC展開を検討する百貨店が増えているという。また、自治体も関心を示している。ある農家とメロンの出展の話から取り組みが広がり茨城県が関心を示し、現在、同社が渋谷のスペイン坂で運営している実験カフェ「ラボラトリーカフェ・バイ・AZLM」で茨城県の産品の実験展示を行っている。今後は同様の地域フェアなどの取り組みも検討していく。
(繊研新聞本紙21年8月27日付)