22~23年秋冬ミラノ・メンズコレクションは、シアリングやダウンのボリュームを生かしたスタイルが広がっている。ナイロンやPVC(ポリ塩化ビニル)のケミカルな光沢やフェイクファーのトリミングがボリュームにコントラストを作る。
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〈フィジカル〉
プラダは、プラダ財団のマルチスペース「デポジト」に、ベルベットの快適な座席を並べ、広大で親密な映画館のような空間を作り上げた。ランウェーにはモデルに加えて、たくさんの俳優がキャスティングされた。「ジュラシックパーク」のジェフ・ゴールドブラム、「ツインピークス」のカイル・マクラクランら、異なる存在感を持ち、味のあるハリウッド俳優10人が登場した。リアリティーを演じる彼らがまとうプラダは、十人十色の表情を見せる。
テーマは「ボディー・オブ・ワーク」。「仕事」を、我々の存在における重要な要素として捉えることからスタート。日常的な仕事着にテーラーリングの洗練されたエレガンスを融合し、その相互作用によって生まれたのは、様々な職業のヒエラルキーが除かれた服。実用的な仕事着やユニフォームにも尊厳が与えられ、着る人全てに「自分が重要である」と感じさせる服だ。上質な仕立てのロングコートの下にのぞくのは、ハイテクシルクのオーバーオール。ボックスシルエットのジャケット、裾をたるませたややワイドなパンツのスーツは、オフィスで座っている男性というよりも、アクティブに活動する男性をイメージさせる。裾や二の腕にボリュームのあるフェイクファーをあしらったコートやMA-1は、広い肩と絞ったウエスト。形作るボディーラインは、今までのビッグシルエットよりもパワフルでダンディーだ。
(ミラノ=高橋恵通信員)
〈デジタル〉
未来的な空間から登場するたくさんの男たち。プラダのデジタル映像から、マスキュリンな強さと未来への憧憬(しょうけい)を強く感じることができる。プラダがショーにこれだけ多くの俳優を登場させるのは、12年秋冬コレクション以来であろう。その時のコレクションからも強烈な男性らしさを感じたことを覚えている。
今シーズンも、同じようにマスキュリンが強調された。大きな肩幅のレザーコート、比翼仕立てのジャケットやコート。上質な素材感とカッティングで、男性らしさをアピールする。それは仕事着が今シーズンのテーマにあるからかもしれない。働く男性の持つ魅力とその象徴としてのユニフォームを意識することで、ジェンダーフリーが叫ばれる世の中においても、あえて男性らしさが浮かび上がった。
コレクションからフューチャーリスティックな要素も感じ取ることができる。テーラードスタイルとコントラストをなす光沢のセットアップやケミカルな風合いのコンビネゾン。そのスタイルは、ロケットから降りてきた宇宙飛行士のユニフォームのようにも思えてくる。モデルの耳には小さなロボットのピアス。枯れた俳優の静かなキャットウォークからは、男性らしさを超越したアンドロイドのような無機質な雰囲気さえ感じることができた。
1017ALYX9SMは、パリからミラノへ発表の場を移して新作を披露した。秋冬はオーバーサイズのアウターとビュスティエのようなフェミニンなアイテムのコントラストが強調される。ボリュームたっぷりのシアリングやもこもこの量感のダウンジャケットのカジュアルスタイルとともに、ウィメンズではタイトなドレスやビュスティエトップが軸。しかし、ビュスティエトップと合わせるのはストレートパンツで、ストリートのムードを漂わせる。もこもこの量感の一方で、パテントのようなつるりとした光沢のアイテムもある。PVCを使った光沢のベストやトップにふわふわとしたフェザータッチの襟がアクセントとなった。
トッズは、トリノ近郊のリボリ城を舞台にした映像を見せた。歴史的な建造物を背景に、伝統と実験が融合した新作を披露した。城内にあるアート作品のようにアートと現代性の融合がインスピレーション源。コレクションは上質な素材感と快適な日常着を感じさせるラインが揃う。デイリーユースなシャツジャケットはパッチポケットとレザートリムのディテール。ゆったりとしたパーカやピーコート、カシミヤのジムウェアやトラックスーツといったアイテムもある。軽くて快適、昼夜を問わず着用できる汎用性の高いアイテムは、アクティブな男性の日常に適したもの。シューズは機能からカラーパレットまでコントラストが主題となった。自然の色を意識したローファー、テクニカル素材や馬具のロングステッチを合わせたスニーカーなどを出している。
(小笠原拓郎)
「ポケットに入るような小さな本。それらは読み手とともに旅をする。心の旅であり、知識への旅路でもある」--実際に旅をするのが難しい今、エトロは本の中にアドベンチャーを求めた。ダウンジャケットのテキスタイルとして、エアリーなシャツのプリントとして、ペーズリーとともに22年の冬を彩るのはノルディック柄だ。ノーザンスターやオオカミを重ねたグラフィカルなニットウェア、破れたページのように絵柄が突如として変わる。ブランドのシグネチャーであるペーズリーもピクセル化され、陰影を付けることで3Dに。ストラップで背負えるジャケットや艶やかなナイロンのパンツ、アニメのようなふかふかスニーカーと、終始若々しい印象だった。実は会場となったのは大学。知識の殿堂であることが選ばれた理由の一つのようだが、デジタルに依存している若者たちに対して、活字回帰へのメッセージのようにも感じた。
(ライター・益井祐)